焼酎について
- 蒸留酒:
- 焼酎
概要
日本酒と並んで、日本を代表する「國酒」として愛飲されている焼酎です。
一時期の本格焼酎ブームのころから比べると、出荷量や消費量こそ落ちてきてはいますが、逆に一般的な日常に飲むお酒として浸透してきていると言えるかもしれません。
かつては地元民だけが飲んでいた地酒が、広く日本国内で消費される時代に突入してきたということですね。
日本酒と同様、製法に麹を採り入れて作られるということもあり、蒸留酒でありながら、和食とのマリアージュも抜群で、これも焼酎の特異性の1つでもあります。
かつては「くさい」と言われて敬遠されていた焼酎ですが(そういった昔の焼酎を好んで飲まれる方もいらっしゃいます)、醸造技術の向上により今では個性豊かな原材料から非常に質の高い焼酎を、廉価で楽しめる時代になりました。
焼酎の歴史について
蒸留酒の起源は定かではありませんが、古代ペルシャの錬金術師たちによって、5世紀ころにはアラビアで単式蒸留器が作られたのではないかと言われています。
ここから西洋及び東洋に蒸留方法が伝播され、アジア諸地域でも13世紀から14世紀ころには蒸留酒が製造されていたようです。
やがて蒸留方法は日本にも伝わってくるのですが、時期的には14世紀から15世紀、当時東南アジアと交流が盛んだった、琉球王国にシャム国(現在のタイ国)から伝わったという説が有力です(朝鮮半島経由で九州に伝わったという説等、諸説あります)。
更に16世紀に入ると、この焼酎造りの技術が、琉球王国から奄美諸島を経て鹿児島に伝わり、その後宮崎や熊本をはじめとする九州地方ややがては日本全国に広まっていったと言われます。
その後長い年月をかけて日本各地の地域のお酒として定着していき、今日では様々な種類の焼酎を楽しめる時代になりました。
焼酎の名称について
焼酎は大きく、以下の2つの分類に分けられます。
■単式蒸留焼酎
①デンプン質原料あるいは糖分を含む原料を、麹と酵母で発酵させ、「単式蒸留器」※で蒸留させた焼酎
②アルコール度数45%以下の焼酎
この①②の双方の条件を満たすものを「単式蒸留焼酎」と呼びます。
※「単式蒸留器」の詳細は、「お酒」の「蒸留酒」の項目をご覧ください。
更に「単式蒸留焼酎」は、以下の5つに分類されます。
1.穀類またはいも類とこれらの麹を使用した焼酎(米焼酎、麦焼酎、いも焼酎など)
2.穀類の麹のみによる焼酎(泡盛※など)
3.清酒粕(酒粕)を使用した粕取り焼酎
4.黒糖と米麹を使用した黒糖焼酎
5.その他の原料の焼酎
※「泡盛」については後述します。
この分類1~4に該当するもの、および5.のうち国税庁長官が指定した原料から作られる焼酎は「本格焼酎」と表示できます。
原料由来の風味がしっかりと乗った、豊かでコクのある焼酎に仕上ることが多い製法です。
ちなみに国税庁長官の指定する原料とは全部で49品あり、具体的には下記のような種類があります(50音順)。
「あしたば」「あずき」「あまちゃずる」「アロエ」「ウーロン茶」「梅の種」
「えのきたけ」「おたねにんじん」「かぼちゃ」「牛乳」「ぎんなん」「くず粉」
「くまざさ」「くり」「グリーンピース」「こならの実」「ごま」「こんぶ」
「サフラン」「サボテン」「しいたけ」「しそ」「大根」「脱脂粉乳」「たまねぎ」
「つのまた」「つるつる」「とちのきの実」「トマト」「ナツメヤシの実」「にんじん」
「ネギ」「海苔」「ピーマン」「ひしの実」「ひまわりの種」「ふきのとう」
「べにばな」「ホエイパウダー」「ほていあおい」「またたび」「抹茶」
「まてばしいの実」「ユリ根」「ヨモギ」「落花生」「緑茶」「レンコン」「ワカメ」
名前を聞いただけではその種類の想像がつかないものもありますが、これらの原料が100%使われることはほとんどありません。
多くは他のデンプン質原料と一緒に使われ、その割合はラベルに記述されています。
以下の原料を使うことは認められていません。これを使用すると焼酎を名乗ることができなくなります。
・発芽させた穀類(麦芽など)
これはウィスキーと区別するためです。
・果実※
これはブランデーと区別するためです。
ただし、上述の※「ナツメヤシ(デーツ)の実」のみは、果実であるにも関わらず使用が認められています。
・含糖物質(砂糖、はちみつ、メープルシロップなど)
これはラムと区別するためです。
ただし、鹿児島県の奄美諸島で造られる黒糖焼酎のみは、米麹を使うことで特例的に焼酎を名乗ることが許されています。
■連続式蒸留焼酎
糖質物(糖蜜)やとうもろこし、麦などを原材料として、連続式蒸留機※で作られた焼酎で、アルコール度数36%未満のものを「連続式蒸留焼酎」と呼びます。
※「連続式蒸留器」の詳細は、「お酒」の「蒸留酒」の項目をご覧ください。
この製法で作られた焼酎は、アルコールの甘さが仄かに香ってきて、すっきりとしたニュートラルな酒質の焼酎に仕上ることが多いです。
そのまま飲まれることもありますが、酎ハイやサワー、梅酒などのベースに使われることも多い焼酎です。
(酒税法の改正について)
2006年5月の酒税法改正までは、連続式蒸留焼酎を「焼酎甲類」や「ホワイトリカー」、単式蒸留焼酎を「焼酎乙類」や「本格焼酎」と呼んでいました。
現在では、連続式蒸留焼酎は「ホワイトリカーまたは焼酎甲類」、単式蒸留焼酎は「ホワイトリカーまたは焼酎乙類」表示していいことになっています。
単に「旧甲類」「ホワイトリカーまたは焼酎乙類」表示していいことになっています。単に「旧甲類」「旧乙類」と呼ぶこともあります。
注.)正確には、酒税法上の焼酎の表記はひらがなの「しょうちゅう」です。今でも法令や政府の正式文書などでは「しょうちゅう」表記がほとんです。
これは、2010年までは、「酎」の漢字が常用漢字に含まれていなかったためで、2010年以前の法令においてはひらがなが使われています。
ここでは漢字のほうが分かりやすいので、漢字表記で統一させていただきます。
焼酎(単式蒸留焼酎)の造り方について
焼酎の製法については、日本酒の製法と似通った部分がかなりあります。
日本酒造りと同様の単語などについては、「日本酒」の欄をご参照ください。
①製麹(せいきく)
まず焼酎造りのスタートとなるのが麹造りです。
蒸米(あるいは蒸麦)に「白麹菌」または「黒麹菌」をまんべんなくふりかけて、それを麹室(こうじしつ)の中で2日間ほど寝かせることで麹を作ります。
泡盛づくりにおいては、この製麹工程で通常の倍の4日間かけて行い、黒麹菌を最大限お米に食い込ませて、酵素力をアップさせた麹もあります。これを「四日麹」と呼びます。
「白麹菌」や「黒麹菌」は、日本酒で主に使われる「黄麹菌」と比べるとクエン酸を生成する能力が高いとされます。
これにより醪※が強い酸性になり、気温が高い地方でも健全に発酵できることから、今ではほとんどの蔵の焼酎造りで、白麹菌や黒麹菌が使われています(一部黄麹菌を使う蔵もあります)。
※醪の詳細については、日本酒のページをご参照ください。
②一次仕込み(発酵Ⅰ)
1回目の仕込みは、比較的小型の発酵タンクに、製麹で作った麹と水、それに少量の酵母を加えます。
これにより、麹に含まれる酵素がデンプンを糖分に分解し、この糖分を酵母が食べることでどんどん酵母の数が増えていきます。
つまり1回目の仕込みの目的は、おもに酵母を増やすためのものです。
一次仕込みは温度を調整しながら進められ、約6日間で「一次醪」が完成します。
その際、アルコール発酵が進んでいて、この時点で約15度のアルコールが生成されています。
③二次仕込み(発酵Ⅱ)
十分に酵母が増えた段階で、一次醪を大きな発酵タンクに移し、更に下処理を施したいも(甘藷)や麦、米やそばなどの主原料※と水を加えます。
数日が経つと炭酸ガスが発生し、「ぷすぷす」という音とともにアルコール発酵が進んでいきます。
発酵は2週間前後続き、この時点でのアルコール度数は14度から20度で、とろりとした「二次醪」が出来上がります。
※主原料単式蒸留焼酎の場合、この主原料に何を加えるかによって、ほぼその焼酎の種類が決まります。
つまりいも(甘藷)を加えれば「芋焼酎」、米を加えれば「米焼酎」、麦を加えれば「麦焼酎」という訳ですね。
●全麹仕込み
上記のように、通常の焼酎の製造過程では、二次仕込みの段階で主原料を加えるのですが、全麹仕込みの場合、この二次仕込みの際にも麹を投入します。
つまり麹のみを原料として仕込む焼酎の製造方法で、二度の麹仕込みを行うという贅沢な焼酎の造り方です。
この手法はもともと泡盛造り※で取り入れられていたのですが、これを焼酎造りにも応用したということですね。
この製法により作られた焼酎は、使われる麹の量が通常の焼酎よりも格段に増えるため、穀物本来の甘さや風味、重厚さも感じられるまろやかな焼酎に仕上ると言われています。
※泡盛造り
詳細については後述します。
④蒸留
本格焼酎造りの場合、この「二次醪」を単式蒸留器を使って一度だけ蒸留して、純度の高いアルコールを抽出します。
単式蒸留器を使った蒸留方法には、「常圧蒸留」と「減圧蒸留」があります。
※「常圧蒸留」「減圧蒸留」の詳細については、「お酒」の「蒸留酒」のページをご参照ください。
この蒸留液は、アルコール度数が60%程度と非常に高く、この状態のままでは焼酎として販売できない(酒税法上、単式蒸留焼酎は4%以下でないと販売できないため→上述の項目をご参照ください)ので、割り水をしてアルコール度数を調整します。
また、最初に流れ出る蒸留液を「ハナタレ」「初垂れ」といって珍重しています。
ごくわずかな量しかとれないこともその理由ですが、何よりも香りが華やかで一番美味しいとも言われるからです。さらにその後に出てくる蒸留液を「本垂れ」あるいは「中垂れ」、最後の方で出てくる蒸留液を「末垂れ」と呼んでいます。
「初垂れが一番美味しい!」という人も多いのですが、「本垂れ」や「末垂れ」にもそれぞれ良さがあり、焼酎に個性をもたらす旨み成分や風味などは、あとから出てくる原液のほうが豊富だとも言われますね。
これらの原液をどのように組み合わせていくかが、杜氏の腕の見せ所ということです。
⑤濾過Ⅰ
原酒には「フーゼル油」※と呼ばれる高級アルコールの混合成分が含まれています。
これは、旨み成分の元にもなりますが、多すぎると油臭さや雑味を生じることになり、また無濾過の場合はオリのようになって濁ることもあります。
これらを防ぐために濾過を行い、適度にフーゼル油を取り除いて、香りや味わいの調節を行います。
※「フーゼル油」の詳細については、「ウオッカ」のページをご参照ください。
⑥貯蔵・熟成
芋焼酎など、一部の本格焼酎には旨み成分の高級脂肪酸が含まれているため、熟成を経ないでもフレッシュな状態で楽しめると言われています。
しかしながら一般的な本格焼酎は、蒸留したてのものは味が粗く、通常は数ヶ月間貯蔵させて、味が落ち着いてくるのを待ってから出荷されることが多いです。
⑦濾過Ⅱ
貯蔵後に再度濾過をして、味わいの調整を行います。
濾過を最低限に抑えた「荒濾過」や、全く濾過を施さない「無濾過」などもあります。逆に、瓶詰めまでに複数回の濾過を行うこともあります。
⑧割水(わりみず)
原酒のままの状態の焼酎は、40度前後のものが多いです。
一般的な焼酎の度数は、25度から30度程度のものが多く、この段階で水を加えて度数や酒質の調整を行います(原酒に近い度数のままリリースされる商品もあります)。
⑨瓶詰め
上記のような工程を経て、ようやく最終の瓶詰め作業を迎えます。
しかしながら、異物混入等がないよう、厳しいチェック体制を敷きながら作業は進められ、その後晴れて出荷となります。
(製造工程で行えない処理について)
焼酎造りにおいて、以下の工程を行うことは認められていません。これを行なうと焼酎を名乗ることができなくなります。
・白樺(シラカバ)の炭で濾過を行なったもの
これはウオッカと区別するためです。
・酒に杜松(ネズ)の実を加えて蒸留したもの
これはジンと区別するためです。
ちなみに、砂糖を添加しても焼酎を名乗ることは可能ですが、添加量が焼酎全体の2%未満であること、ラベルに「砂糖添加」を表示することが必要になります。
ただし、「本格焼酎」を名乗ることはできず、この場合単なる「単式蒸留焼酎」か、「焼酎乙類」という呼称になります(2006年5月の酒税法改正以降は、「旧乙類」という呼称が正しいのかもしれません)。
産地呼称焼酎について
シャンパンやスコッチと同様、焼酎にも産地呼称が許されているものが4つあります。
これは、世界貿易機構(WTO)の「地理的表示基準」に基く様々な条件をクリアした焼酎にのみ与えられる呼称です。
以下、それぞれご紹介します。
ちなみに、「壱岐焼酎」「球磨焼酎」「琉球泡盛」は平成7年(1995年)に産地指定を、「薩摩焼酎」は平成17年(2005年)に産地指定の認定を受けています。
●薩摩焼酎
鹿児島県内で作られる芋(甘藷)焼酎です。
もともとこの地域はシラス大地が広がり、稲作には不向きとされてきました。
そこに17~18世紀ころにかけて、琉球からサツマイモ(甘藷)が伝わり、それ以来この地でサツマイモによる焼酎造りが始まったとされます。
「薩摩焼酎」を名乗るには、上記以外にも以下のような条件があります。
・奄美市及び大島郡を除く鹿児島県内で造られたもの
・サツマイモと水、米麹または芋麹がすべて鹿児島県産であること
・単式蒸留器で一度だけ蒸留させること一時期の焼酎ブームを牽引したことでも知られる薩摩焼酎ですね。
●壱岐焼酎
長崎県壱岐市、玄界灘に浮かぶ壱岐島で造られる麦焼酎です。
焼酎の蒸留技術は、琉球経由で薩摩から日本に伝わったとする説が有力ですが、同時期には朝鮮半島や済州島でも蒸留酒が製造されていて、朝鮮半島経由で壱岐島に伝わったとする説もあります。
いずれにしても、江戸時代後期には、この地で自家製の焼酎が造られていたと考えられています。
島には今でも7つの蔵が残っていて、原料の麦の香ばしさと、米麹の甘みを感じるのが壱岐焼酎の特長です。
「壱岐焼酎」を名乗るには、以下のような条件を守らなければなりません。
・壱岐島内で造られたもの
・壱岐島内の仕込み水で造られたもの
・原料の割合が大麦2/3、米1/3であること
・単式蒸留器で一度だけ蒸留させること
壱岐島は、麦焼酎発祥の地としても知られています。
●球磨焼酎
球磨川の流れる熊本県人吉・球磨地方で造られる米焼酎です。
このあたりは、昔から良質な米所であり、また隣が鹿児島県であったことから、焼酎造りの技術が自然と伝わりお米を原料とした焼酎造りが始まったと考えられます。
「球磨焼酎」を名乗るには、以下のような条件を守る必要があります。
・原料はお米のみ
・人吉・球磨地方の地下水で仕込んだものであること
・単式蒸留器で一度だけ蒸留させること
日本酒の吟醸酒を思わせるような吟醸香を持つものもあり、軽快で飲みやすいタイプの焼酎が主流となっています。
●琉球泡盛
沖縄県内で、原料となるタイ米(インディカ米、長粒米)から造られる米焼酎の一種です。
上述のように、日本の焼酎造りの始まりが泡盛であるとする説が有力です。
15世紀にはすでに琉球王国で造られていたという由緒あるお酒で、他の焼酎とは(製造方法を含めて)一線を画します。
現在、沖縄県内では47酒造所※がそれぞれ独自の泡盛を製造しています。
※正確には47酒造所と1酒造協同組合で、48場で作られています。
「琉球泡盛」を名乗るには、以下の条件を守る必要があります。
・タイ米を原料として、黒麹菌で仕込んだものであること
・沖縄県内で造られたものであること
・仕込は1回で、全麹仕込みであること
・単式蒸留器で一度だけ蒸留させること
注.)近年は、上記の呼称にこだわらず、様々な泡盛造りが盛んになっています。
例えば、タイ米ではなく敢えてジャポニカ米を使って泡盛を仕込んだり、あるいは蒸留を複数回行ってすっきりとした飲み口を目指すなど、何とか泡盛の消費量を増やそうとして、各蔵元で試行錯誤が繰り返されています。
さらに近年の研究によって、国税庁の文献の中に「複数回の蒸留を行なっても可」という文言が見つかったそうです。
公にはなっていないようですが、これを拠り所として「3回蒸留の泡盛」をリリースしている蔵元もあり、泡盛造りも新時代に突入していると言えます。
これらの製法により造られた泡盛は、独特の芳香と濃厚な甘みが感じられるお酒となっています。
(泡盛の名前の由来について)
できあがった泡盛を茶碗に移し替えて、その際に生じる泡の立ち具合をみて、アルコールの強さを判断したことから、「泡盛」という名前になったとする説が有力です。(他にも諸説あります。)
ちなみに、沖縄の地元の人は、この泡盛のことを「島酒」、略して「しまー」と呼ぶことが多いです。
(黒麹菌について)
酒類の製造の際に黒麹菌(アワモリコウジカビ)を使うのは、中国や東南アジアでは見られず、沖縄独特のものです。
黒麹菌は強いクエン酸を造るため、腐敗菌や雑菌を殺してしまいます。
そのため、沖縄のような気温の高い地域でも、一年中蒸留酒が造れるようになりました。
また大正7年には、「近代焼酎造りの父」と言われた河内源一郎氏が、黒麹菌から白色変異株を分離し、純粋培養させることに成功しました。
これが「白麹菌」で、白麹菌は黒麹菌同様、強いクエン酸を持ちながら衣服を汚すようなこともなく、これにより九州での焼酎造りの主流が、白麹菌(学名:アスペルギルス・カワチ)に切り替わっていったとされます。
(泡盛の製造方法について)
上述したように、泡盛を名乗る条件としてその製法は「仕込は1回で、全麹仕込み」であることが必要です。
通常の焼酎造りは、仕込みを2段階に分けて行いますが、泡盛はこれを1回で済ませるということです。
年間を通じて気温が高い沖縄では、雑菌が繁殖しやすく腐敗も早いため、原料のインディカ米全てを強いクエン酸を持つ黒麹にしてから一度で仕込むようになったと言われています。
上記のように、黒麹(泡盛麹)と水、泡盛酵母で醪を仕込み、約2週間発酵させた後に、1回のみ蒸留を行います。
(古酒について)
泡盛が他の焼酎と大きく異なる特長として、「長期熟成」が挙げられます。
長期間甕などの容器に入れて熟成させることにより、酒質がまろやかに甘くなります。製造してから3年以上熟成させたものは、「古酒(くーす)」と呼び珍重されます。
かつては、数百年もの長期間にわたって保存されていた古酒があったとされますが、戦争によりほとんどなくなってしまいました。
(仕次ぎについて)
泡盛においては、古酒の品質を一定に保つために「仕次ぎ」という手法がとられています。
例えば、最も古い甕(これを「親酒」といいます)から少量を取り出して飲んだ場合、その目減り分を2番目に古い甕(これを「2番手」といいます)から補填し、さらにその目減り分は3番手から補充する、というように、いきなり新酒を投入して親酒の品質を損ねないようにしています。これを「仕次ぎ」と呼びます。
シェリーでいうところの「ソレラ・システム」※と似た手法ですね。
※「ソレラ・システム」については、ワインのシェリーのページをご参照ください。
(首里三箇について)
琉球王朝時代、王朝の命令を受けて酒造りを行なっていた地域で、今では下記の3つの蔵元が首里に残されています。
・瑞泉(ずいせん)酒造(地区:崎山)主要銘柄瑞泉、おもろなど
・咲元(さきもと)酒造(地区:鳥堀)主要銘柄咲元など
・識名(しきな)酒造(地区:赤田)主要銘柄時雨(しぐれ)など
上記以外にも琉球王朝時代から首里で酒造りを担った老舗がありましたが、今ではそれぞれ別の場所で泡盛を造っています。
・瑞穂(みずほ)酒造(地区:首里末吉町)主要銘柄ロイヤル瑞穂など
・新里(しんざと)酒造(地区:沖縄市)主要銘柄琉球、かりゆしなど
(花酒について)
前述したように、酒税法上「単式蒸留焼酎」を名乗るには、度数が45%以下である必要があります。
泡盛も同様であり、45%より度数の高いものは「泡盛」とは言えず、この場合酒税法上は「原料用アルコール」となります。
唯一の例外として原酒の度数のままの販売が認められているのが与那国島で造られる「花酒」で、アルコール度数は60度のものもあります。
(ハブ酒について)
よく、国際通りの土産物屋の店頭で、瓶の中でとぐろを巻いているハブ酒を見かけますね。
ちょっとびっくりするようなビジュアルのお酒ですが、沖縄では古来、滋養強壮の秘蔵酒として珍重されてきた薬味酒です。
薬味酒というように、泡盛をベースに、数種類のハーブやウッチンなどの薬草類と、蜂蜜やパインなどの甘みでハブの臭みを和らげています。
上記のような製造方法をとることから泡盛とは名乗れず、酒税法上は「リキュール」の扱いになります。
かなり値段はお高くなりますが、興味のある方はぜひトライしてみてください!
●イムゲー(芋酒)
これまでご説明してきた「泡盛」は、琉球王朝の管理の下で作られたお酒で、徳川幕府に献上されたり中国からの使者に振る舞われたり、言わば特権階級のための超高級酒であって、庶民が口にすることはまずなかったと言われています。
では一般の庶民が口にしていたお酒はなかったのかということですが、大正・昭和・平成を経て約一世紀ぶりに蘇った庶民のお酒が「イムゲー」です。
「イムゲー」は今からおよそ100年前、主に自家消費用のお酒として各集落や個人単位で広く作られていたと言われています。
泡盛の原料となるタイ米は非常に貴重で入手が困難であったため、イムゲーの原料には比較的入手が簡単な甘藷類(サツマイモ)などを使っていました。
その製法は長らく謎とされてきましたが、2015年より石垣島の「請福酒造」さん・久米島の「久米島の久米仙」さん・宮古島の「多良川」さんと、うるま市の「沖縄県工業技術センター」さんが共同開発をして、イムゲーの復活に成功しました。
2018年からは量産化の目処もたち、今では沖縄県内の酒販店などでも簡単に購入できるようになっています。
復活した「イムゲー」ですが、甘藷類に加えて沖縄の特産品である黒糖類も原料としていて、泡盛でも焼酎でもない「沖縄第2の地酒」として注目を集めています。
その味わいですが、まずサツマイモ由来の爽やかで華やかな香りや風味が立ちあがってきて、次に鼻孔にバニラやカラメルのような甘みが残ります。
飲み口は軽く、黒糖焼酎のようなキレもあり、独特の立ち位置の蒸留酒に仕上っています。
因みにこの「イムゲー」、漢字で書くと「芋下」と表すそうで、酒税法上は「スピリッツ」に分類されます。
琉球王朝の秘蔵酒としての「泡盛」と、琉球庶民に長く愛されてきた「イムゲー」、この2つの伝統のお酒が両輪となって、今後の沖縄のお酒業界を盛りあげていくことが期待されています。
・イムゲーの製法について
イムゲーの原料は上述したように甘藷類(サツマイモ)と黒糖です。
サツマイモを使った焼酎と言えば「薩摩焼酎」、黒糖の焼酎と言えば奄美大島特産の「黒糖焼酎」が有名ですが、イムゲーはそのどちらとも違う味わいです。
その理由の一つはイムゲーの製法にあります。
一般的な本格焼酎の造り方は一次仕込みで麹と水、これに少量の酵母を加えて醪を作り、二次仕込みで主原料となる穀物を加えます。
一方、黒糖焼酎については、二次仕込みをさらに2回に分ける「三次仕込み」を行なうことが一般的です。(このあたりの焼酎の製法の詳細については、「焼酎の造り方」の項目をご参照ください。)
そしてイムゲーの製法ですが、一次仕込みで麹・水・酵母を加えて発酵、二次仕込みで主原料となるサツマイモを加えて発酵させるところまでは、芋焼酎の造り方と同様です。
さらにイムゲーの製造工程では、三次仕込みとして黒糖の粉を加えて発酵させます。上記でも触れましたが、この工程があるためにイムゲーは酒税法上「焼酎」ではなく「スピリッツ類」に分類されます。
いわば「芋焼酎と黒糖焼酎のハイブリッド製法」と言ったところですね。
サツマイモや麹の種類、黒糖の分量などを使い分けることにより、様々な味わいの変化が可能になると言われています。
ちなみにイムゲーの作り手の多くは農家の主婦であり、男はもっぱら飲むだけだったとか・・・。このことから、イムゲーを上手に作れることは、いいお嫁さんになる条件でもあったそうです。
なんだか現代で言うところの「肉じゃが作り」のようで、ちょっと面白いですね。
その他の主な焼酎
産地呼称が許されている焼酎は上記の4つですが、他にも全国で造られている焼酎はたくさんあり、主なものを以下ご紹介します。
■黒糖焼酎
鹿児島県の奄美諸島でのみ造られる、黒糖を原料とした焼酎です。
もともとこの地域では、泡盛と同時期から焼酎が造られていて、地理的に米や麦の栽培には向いていないことから、サトウキビが古くから造られていました。
当時、黒糖は貴重品であったことから、最初の頃の焼酎の原料は、粟や椎、ソテツの実で造られていたようです。
転機は戦争で、この時期島外との輸送手段が絶たれてしまった島民が、黒糖を使って焼酎造りを始めたと言われています。
黒糖という糖分を持つ原料を使いながら、なお米麹を使って焼酎を造った背景には、こういった事情があるようです。
本土復帰後、当時の酒税法では黒糖を使った焼酎の製造は認められていなかったのですが、島民の強い働きかけもあって、奄美諸島だけの特別な焼酎として「黒糖焼酎」が認められました。
米麹で一次醪を仕込む点は、他の焼酎造りと変わるところはありませんが、黒糖焼酎においては、二次仕込みで黒糖を投入する作業を更に2回に分ける、いわゆる「三次仕込み」を行う蔵がほとんどです。
これは、黒糖を入れる回数を分けることで、酵母のストレスを減らし、優しい甘みを引き出すためと言われています。
こうした工程を経て造られる黒糖焼酎は、サトウキビ由来のフルーティな香りと濃厚な甘さ、コクとまろやかさを併せ持っており、「奄美の宝石」とも称されています。
■麦焼酎
産地呼称の麦焼酎としては、上述の壱岐島の「壱岐焼酎」が有名です。
壱岐焼酎が米麹に麦を掛け合わせるのに対し、大分県では麦麹に麦をかけあわせる手法をとり、これが全国に広まり、今では大分県は麦の一大生産地となっています。
大分県以外でも、宮崎県、福岡県などでも麦焼酎は盛んに造られています。
■東京島酒
上記の分類は、材料を基にしたものになりますが、こちらは地域を基にした焼酎の区分となります。
焼酎造りの本場と言えば、九州や沖縄が主な産地だと思われがちですが、実は東京の島嶼部での焼酎は盛んに生産されています。
造られる焼酎としては麦麹を使用した麦焼酎の割合が多いですが、中には芋焼酎と麦焼酎をブレンドさせたハイブリッドな焼酎もあります。
ここでは、蔵元が集まって組合を作り、産地呼称の取得を目指した活動を行っているそうです。
もしかしたら、近いうちに5つめの産地呼称焼酎が誕生するかもしれません。
この他にも、そば・栗・じゃがいも・とうもろこし・酒粕・しそ・山芋・胡麻・にんじん・海苔・なつめやし・蓬など、様々な原料から焼酎は造られています。
■粕取焼酎
上記のいくつかの原料で作られる焼酎と違って、こちらは日本酒造りの工程で生じる「酒粕」から作られる焼酎です。
「酒粕」といえば、甘酒などの原料として使われることでも知られていますが、これを原料として焼酎造りも行なわれています。
いくつかの造り方がありますが、ここでは主に2つの製法をご紹介します。
・正調粕取り焼酎
酒粕に籾殻(もみがら)を混ぜ込んで、これを「せいろ式蒸溜器」※で蒸溜する焼酎を「正調粕取り焼酎」と呼びます。
昔から日本で造られている、伝統的な製法です。籾殻を混ぜるのは、発酵させる過程で、通気性を高めるためだと言われています。
昔ながらの製法ではありますが、ややクセのある味わいで、もみがら由来のやや苦味のあるテイストが口の中に広がります。
はまる人にはたまらない味わいですが、近年ではこれを敬遠する人も多く、やがて後述するライトタイプの「吟醸粕取り焼酎」へと主流が移っていきました。
※「せいろ式(かぶと釜)蒸溜器」
「古式蒸留」と呼ばれて、明治頃までは盛んに使われていた製法でしたが、手間がかかり高度な技術も必要なことから近年ではあまり見られなくなってきました。
木製せいろとかぶと釜による古式蒸溜ですが、敢えてかつての焼酎の味わいを復活させようとして、これらの手法に取り組む蔵元も出てきています。
・吟醸粕(醪)取り焼酎
こちらは酒粕に酵母・水を加えて再発酵させてから減圧蒸留※の手法で蒸溜する焼酎で、吟醸香が残っていて、日本酒のような味わいも楽しめます。
日本酒ファンにも好んで飲まれる焼酎で、近年人気を集めている粕取り焼酎です。味わいは上品ですっきりとしていて、端麗で爽やかな香りが特徴です。
こちらは日本酒造りの盛んな地域の清酒蔵で盛んに作られていて、島根県や九州地方、また福島県の会津地方などが有名です。
「減圧蒸留」の詳細については、「お酒基本」のページをご参照ください。
焼酎の飲み方
焼酎の飲み方は、一言で言えば「なんでもあり」で、自由気ままに楽しめるお酒です。例えば以下のような例が挙げられます。
・ストレート
・ロック
・水割り、お湯割り
・炭酸割り(ハイボール)
・前割り(水で焼酎を割って、日の当たらない所で数日間寝かせたもの)
お湯割りの場合、「焼酎と水の割合は6:4」とか「先にお湯を注いでから焼酎を入れる」とかいろいろ言われますが、要は自分が美味しいと思う飲み方で楽しむのが一番だと思います。
色つきの熟成焼酎について
みなさんが焼酎を飲むとき、気づかれる方もいらっしゃるかと思いますが、焼酎の色はほとんどが無色透明か、色がついていても淡い黄金色程度と非常に薄く、ウィスキーのように濃い茶褐色の焼酎を見たことがある人はいないと思います。
これはなぜかということですが、酒税法で焼酎には着色してはならないことになっているからです。
具体的には国税庁が分光光度計※という道具を使って焼酎の色合いを測定するのですが、簡単にかみ砕いて言いますと、だいたい「ウィスキーの1/10程度の色合いまでならok」ということになります。
ではなぜ焼酎に熟成色をつけてはならないのかという理由ですが、実はよく分かっていません。
この法律が定められた当時、ウィスキーとの区別をするために色づけが禁止されたとも言われていますが、なぜウィスキーと区別をしなければならないのか、今となっては合理的な理由にはならないですね。
※より具体的に言いますと、この分光光度計により色味が吸光度0.08以下に調整されなければなりません。
もし、長期間焼酎の樽熟成を行いこの数値を上回った場合は、濾過脱色を行なったり他の焼酎をブレンドしたりして、色合いを薄めてから出荷されます。
現在、世界的にウィスキーブームとなっていて、その中でもジャパニーズウィスキーの人気はトップクラスです。
日本を代表するもう一つの蒸留酒、焼酎に樽熟成を施したものを飲んでみたいと思う焼酎ファンも多いのではないかと思います。
現在、焼酎は一定の固定ファンは確保しているものの、2000年代後半をピークとしてブームは沈静化しています。
これから先、さらに焼酎の消費を喚起し、またより広い販路を求めて海外市場に打って出るためにも、焼酎の樽熟成(色つきの熟成)を認める法改正(規制緩和)が待たれています。
その他
■ホッピー
1948年にホッピービバレッジが発売した、ビールテイストの飲料水で1%未満のアルコールが含まれています。
これに甲類焼酎を加えた、自分で作る一種のカクテル(飲み物)もホッピーと呼びます。
また、ホッピーファンの間では、ホッピーのベースとなる焼酎には三重県四日市市宮崎本店の「キンミヤ焼酎」が良いとされています。
おかわりを注文する際の知識として、焼酎を追加注文する際には「ナカおかわり」、ホッピーを追加注文する際には「ソトおかわり」とオーダーします。
■ホイス
港区白金にある「後藤商店」さんで作られる「ホイス」ですが、実はアルコールは含まれておらず、いわゆる「割り材」です。
そういう意味では「ホッピー」と飲み方も似ていて、焼酎と炭酸水で「ホイス」を割って飲むのが一般的です。
また材料ですが、世界各国の薬草類や漢方、いろんな柑橘系の果皮などがブレンドされていて、「ホッピー」がビールテイストの飲料ならば、「ホイス」は薬草系リキュールテイストの飲料だとも言えます。
1950年頃から生産されている「ホイス」ですが、その飲み方から「酎ハイの元祖」とも言われていて、名前の由来は「ウィスキー」からとったのだとか・・・
小売りはされておらず、一部の大衆居酒屋にしかおいていないことから「幻のホイス」とも呼ばれています。見かける機会があれば、ぜひトライしてみて下さい!
■バイスサワー
上記の「ホッピー」「ホイス」同様の割り材で、1980年代からコダマ飲料さんが生産している炭酸飲料です。
昔ながらの大衆居酒屋や下町の酒場で飲まれることが多いのですが、この「バイスサワー」を置いているお店も限られていて、ホイス同様「幻の飲み物」と呼ぶ人もいます。
そのネーミングですが、「梅酢」を音読みしたもので「バイス」となったと言われていますが、実際には酢は入っていないそうです。
しかしながら、梅と紫蘇のエキスが味わいのキーとなっていて、甘酸っぱくすっきりとした味わいと、その鮮やかなピンク色から、今でも根強い人気を誇っています。
なかなかお目にかかることもなく、もし出会うことがあれば迷わずオーダーしてみてください!
■カストリ(焼酎)
上述した酒粕から作られる「粕取り焼酎」とは全く別物のお酒です。
戦後直後、まだ混乱が続いていた日本国内の闇市のような場所で、裏ルートで取引されていた粗悪な密造焼酎を「カストリ」と呼びました。
そもそもが密造酒であったため、製法もいいかげんなものが多く、健康に害を及ぼすような酒も多かったようですが、戦後の物資不足も相まって、こんなお酒でも盛んに飲まれていたようです。
仮にこの「カストリ」の味を覚えている方がいらしたとして、すでに90歳を超えている計算になります。
また、当時の現物の「カストリ」が現存している可能性も極めて低く、いろんな意味で幻になってしまったお酒だと言えそうです。