ブランデーについて
- 蒸留酒:
- ブランデー
概要
ブランデーとは、一言で言えば「葡萄を発酵して蒸留したお酒」です。
かなり乱暴な言い方になってしまいますが、要するに「ワインを蒸留したお酒」のことです。
本来はこのような定義でしたが、現在では「果実を蒸留して作られたお酒」全般を広く「ブランデー」と言い表すことが一般的です(葡萄から作られたブランデーとの区別を意識する際には、より正確に「フルーツ・ブランデー」と言い表すことがあります)。
つまり、林檎やオレンジ等の果実から作られた蒸留酒も、広義の意味では「ブランデー」と呼ばれるということです。
馥郁とした香りと味わいで、気品に満ち満ちたお酒「ブランデー」、「貴族のお酒」とも「蒸留酒の女王」とも称されるブランデーですが、その起源は実はフランスではなく、スペイン生まれの錬金術師にそのルーツがあると言われています。
当初このお酒は「命の水」を表すラテン語、「アクア・ヴィテ」と呼ばれていました。
15世紀ころにはこのお酒がフランスにも伝わり、当初は「アクア・ヴィテ」をそのままフランス語に置き換えて「オー・ド・ヴィ」と呼び、その頃は薬用酒として飲用されていたそうです。
フランスで「オー・ド・ヴィ」の生産が本格化するのは17世紀に入ってからで、この頃から海外にも盛んに輸出されるようになりました。
その担い手となったのは、フランスにやってきたオランダの貿易商人で、彼らを通じて北欧やイギリスなど各国に「オー・ド・ヴィ」がもたらされました。
また、コニャック地方では、ワインを蒸留して造られたこの「オー・ド・ヴィ」を、「焼いたワイン」という意味のフランス語、「ヴァン・ブリュレ」とも呼んでいました。
これをオランダの貿易商人がオランダ語に直訳し、「ブランデウェイン」として販売、これを主要輸出先であるイギリスに輸送したところ、イギリス人がこれを縮めて発音して「ブランデー」と呼ばれるようになったと言われています。
(コニャック・アルマニャックの主な造り方について)
これらのブランデーですが、大きく分けて2種類の作り方があります。
1つはウィスキーなどと同様、樽熟成を経て琥珀色を帯びたもの。
樽から滲み出た成分が液体に浸透し、重厚で力強いコクが生じるのが一般的です。
もう一つが樽熟成を経ずに、無職透明な液体のままリリースされるもの。
こちらは原料となる果実が手つかずの状態で蒸留されたお酒で、それぞれのマテリアルの特色が前面に押し出されています。
どちらがいいという二択ではありませんが、各自のお好みやその日の気分によって飲み比べてみるのがいいかもしれませんね。
ここでは、ブランデーの最高峰とも言える、コニャック・アルマニャックの主な製法をご紹介します。
①ぶどう品種
コニャック・アルマニャックに使用されるぶどう品種は、主としてユニブランという白ぶどう品種が使われます。(別名で「サンテミリオン」とも呼ばれます。)
他にも、コロンバールやフォル・ブランシュとったぶどうも使用可能ですが、コニャック・アルマニャックそれぞれの地方で、使用できるぶどう品種の種類や割合などは異なっています。
この主要ぶどう品種である「ユニ・ブラン」ですが、ワインにするには酸が多くアルコール度数も低くなるため高級ワインにはなりにくいのですが、ブランデーの原料として使うとこれが長所に変わります。
具体的には、酸が多いことで雑菌の繁殖が抑えられて、熟成期間中に芳香成分が生じやすくなります。
またワインのアルコール度数が低くなることから、大量のワインから少量のブランデーしかできないことになり、これが逆にぶどう由来の香りを凝縮させることにつながるためです。
②除梗(じょこう)・破砕
原料となる白ぶどうのうち、苦みの強い茎(果梗)の部分を取り除きます。
この作業を「除梗(じょこう)」と言いますが、この工程は白ワイン造りと同様です。
収穫した白ぶどうを破砕機に入れて果実を破砕、同時に上記の除梗を行うという行うという点では、白・赤ワインの工程と変わるところはありません。
③圧搾
破砕された白ぶどうは圧搾機に入れられ、果汁を搾り取ります。
ブランデーに使用するのは果汁のみで、果皮や種子はその前に取り除きます。
この点が、赤ワインの製法と大きく異なる点で、その意味でもここでのブランデーの製造方法は、白ワインの製造工程と似通っています。
④アルコール発酵
搾り取られた果汁を発酵タンクに入れ、ここに酵母を加えてアルコール発酵を行います。
この際、どういった酵母を使うのかは、それぞれのブランデーメーカーの個性にもつながっていくわけですが、一般的にはブランデー作りに向いている酵母を純粋培養したものを使っているところが多いです。
これに対して、自然界に存在する酵母や蔵に付いている酵母のみを使って発酵させる「自然発酵」の手法をとるメーカーもあります。
しかしながら、この手法は時間と手間がかかり、また安定した品質のブランデーを作りにくいというデメリットもあり、難しい製法だと言えます。
こうしてブランデーの原料となる白ワインができる訳ですが、上述したようにユニ・ブラン種で作ったワインはアルコール度数が低くなり、通常のワインに比べるとやや度数低めの8%前後の白ワインになります。
⑤蒸留
ここからがワインと異なる、蒸留酒独自の工程になる訳ですが、その原理や方法については、ウィスキーや焼酎などの他の蒸留酒の手法とほとんど変わりません。
(「蒸留」の原理や仕組みについては、「お酒基本」のページをご参照ください。)
また、蒸留の方法については、コニャックやアルマニャック、またフレンチ・ブランデーなど、そのカテゴリによって少しずつ違いがあります。
以下、それぞれ見ていきます。
■コニャック
コニャックの蒸留は、「アランビック・シャランテ」と呼ばれる単式蒸留器を使って2回蒸留されます。
また、コニャックでは蒸留機を熱するのに必ず直火で行うことが義務づけられています。
※「単式蒸留器」の詳細については、「お酒基本」あるいは「スコッチ」のページをご参照ください。
・1回目の蒸留(初留)
「初留」では、流れ出てくる液体を、その順番に3種類に分けます。
最初から順に、「テット(前留)」「ブルイイ(中留)」「クー(後留)」と呼びます。
「テット」と「クー」はそれぞれ全体の2%程度で、アルコール度数が安定せず、不純物などが含まれていることも多いため、通常2回目の蒸留には回さないことが一般的です。
中間に出てくる液体「ブルイイ」をメインの原液として、次の「再留」に回します。「ブルイイ」のアルコール度数は27%から30%程度で、やや白濁しています。
「ブルイイ」は「粗留液」とも呼ばれます。
この「初留」は、原液タンクがいっぱいになるまで繰り返され、通常は3回目の蒸留でほぼ満タンになります。因みに「コニャック」の場合、この原液タンクの容量は最大で3000リットルと決められています。
・2回目の蒸留(再留)
「再留」では、「ブルイイ」を再び蒸留機に戻し、これを蒸留します。
「再留」はフランス語で「ボンヌ・ショーフ」と呼ばれます。
「スコッチ」も「コニャック」同様、単式蒸留器で2回の蒸留を行ないますが、「スコッチ」がそれぞれ別の「ポットスチル」を使うのに対し、「コニャック」は2回とも同じ蒸留機で蒸留を行います。
「再留」では、流れ出てくる液体を、その順番に4種類に分けます。
その順番に「テット(前留)」「クール(中留)」「スゴンド」「クー(後留)」と呼びます。
「初留」と同様、「テット」と「クー」は基本的に取り除かれます。
「スゴンド」はアルコール度数60%程度の液体で、「スゴンド」は熟成には回されず、この次のコニャックを「再留」する際に、「初留」の「ブルイイ」に少量がブレンドされて使われます。
次の製造工程の熟成に回されるのは「クール」の部分で、アルコール度数は70%前後になります。
このアルコール度数にもコニャックの規定があり、蒸留時の度数の上限は72度と定められています。
因みに、「クール」とはフランス語で「心臓」を意味し、スコッチの中留※を「ハート」と呼ぶのと同様です。
真ん中の蒸留液のみを熟成に回すという発想も同じですね。
※「スコッチ中留」の詳細については、スコッチのページをご参照ください。
この蒸留に要する時間もメーカーによって異なりますが、概ね初留に8~10時間程度、再留に10~14時間程度必要だと言われています。
このようにして作られるコニャックは、ワインのフルーティな香りと力強さを兼ね備えていて、味わいやコクのバランスに優れたブランデーとなります。
■アルマニャック
コニャックの製法との最大の違いは、半連続式蒸留器(アランビック・アルマニャック)で1回のみの蒸留を行う点です。
1972年からは、コニャック同様、単式蒸留器で2回の蒸留を行うことも認められるようになりましたが、現在でも9割は伝統的な半連続式蒸留器を使っています。
コニャックとの違いはその生産規模にもあり、コニャックの多くのメーカーが複合経営や大手企業であるのに対し、アルマニャックは家族経営のような小さな農家であることが多く、アランビックを農家同士で貸し借りをしたり、自家のぶどうを蒸留業者に売ってアルマニャックを生産してもらっているような農家もあります。
・半連続式蒸留器(アランビック・アルマニャック)
文字通り、連続式蒸溜器を半分(簡易的)にした蒸溜器です。
連続式蒸溜機の場合、塔のような形をした蒸留機の中に、数十段の棚(精留棚)が取り付けられていて、この中をワインが通っていきます。
塔の底を加熱すると、ワインのアルコール成分が気化していき、上段の棚に進むほどアルコール度数が高くなる仕組みです。
連続式蒸溜器を使用して蒸留した場合、アルコール度数が90%を超える液体を得ることも可能です。
一方、半連続式蒸留器の場合は、この棚の数が限られていて、そのため出来上がってくるアルコール原液も、約55%から60%程度にとどまります。
アルマニャックの規定により、この段階でのアルコール度数は52%から72.4%まで認められているのですが、伝統的に52%から60%程度になることが多いようです。
このようにして作られるアルマニャックは、蒸留が1回のみということもあり精留が進まず、男性的で力強い味わいのものが多くなると言われています。
■フレンチ・ブランデー
多くは、連続式蒸溜機を使って蒸留されます。
連続式蒸溜機で蒸留された原酒は、蒸留を複数回繰り返した結果、軽やかでフルーティな香りを持ち、飲みやすい味わいに仕上ります。
⑥熟成
このようにして得られたブランデー原酒は、主としてフレンチ・オークの樽に入れられて熟成されます。
熟成は低温で、適度な湿度のある熟成庫で行なわれます。
この熟成を経ることで、当初は荒々しかった原酒がまろやかになります。
また樽材から浸み出る成分が液体に移ることによって、官能的な芳香を持つ琥珀色の液体へと変化していきます。
熟成は何の樽材を使うのかによっても味わいは変わってきます。
また、熟成の途中で原酒を別の樽に移し替えることもあり、こうした工夫が各メーカーのお酒に個性を与えることになります。
熟成は数年から、長いものになると数十年に及ぶこともあり、こうした長い年月を経ることで、アルコール度数は徐々に下がっていきます。
したがって芳醇な味わいのブランデーが生れることになります。
・エアレーション
この作業はアルマニャック独自の工程となります。
熟成期間中に原酒を樽から取り出してタンクに入れ、また元の樽(あるいは別の樽)に入れ直します。
これを「エアレーション」と呼び、敢えて原酒を空気に触れさせて、個性を落ち着かせるために行います。
⑦調合(ブレンド)
ヴィンテージ・ブランデーなどの一部商品を除き、通常ブランデーがリリースされる場合、ブレンダーにより複数の熟成年数の樽がブレンドされます。
これによりブランデーの品質を均一、安定化させます。
この際、コニャックやアルマニャックのランクを示す表示(ナポレオンなどの表示)※については、最も若い熟成年数に合わせて表示することが定められています。
※ランクについては後述します。
また、ヴィンテージ・ブランデーの多くは、アルマニャックにおいて商品化されています。
⑧瓶詰め・出荷
ブレンドされたブランデーは、機械あるいは人の手によって瓶詰め(ボトリング)され、販売先や代理店などを通じて市場に出荷されます。
●プロプリエテール
ぶどうの栽培から発酵、蒸溜、熟成、瓶詰めまでの全行程を自家で行う、家族経営の小さなブランデーメーカーを「プロプリエテール」と呼びます。
この言葉は、コニャック・アルマニャック・カルヴァドスやワイン造りにおいても使われます。
(世界の主なブランデーについて)
「フルーツ・ブランデー」というカテゴリで言えば
林檎から作られるフランスの「カルヴァドス」
ハンガリーで西洋梨やプラム・ベリー類等、様々な果実から作られる「パーリンカ」
ドイツやフランスのアルザス地方、オーストリアやスイス等で生産されているサクランボの蒸留酒「キルシュワッサー」
東欧・中欧で作られるスモモの蒸留酒「スリヴォヴィッツ」
スペインの「シェリー・ブランデー」
主としてバルカン半島諸国で作られる「ラキヤ」
リトアニアの樽熟成させた蜂蜜ブランデー「ハニーシュナップス」
リンゴと洋ナシから作られる蒸留酒「オープストラー」
木イチゴを原料とするブランデー「フランボワーズ」などが有名ですね。
一方で狭義の意味でのブランデー、つまり葡萄から作られるブランデーは、フランスで作られる「コニャック」や「アルマニャック」が有名です。
日本やイタリア、ヨーロッパ諸国や東南アジア、オーストラリアやアメリカ・ロシアなど、ワインを生産する世界各地でも生産されています。
また、ワインを生産する過程で生じた葡萄の絞りかすを再発酵させて、これを蒸留させたお酒を「かすとりブランデー(ポマースブランデー)」と呼び、フランスの「マール」やイタリアの「グラッパ」などが有名です。
こちらのブランデーも世界各地で生産されています。
スペインでは「オルーホ」
ポルトガルでは「バガセイラ」
ギリシアでは「チプロ」
ドイツでは「トレスター・ブランド」
ペルーやチリでは「ピスコ」
ボリビアでは「シンガニ」
南米諸国では「アグアルディエンテ」
キプロスの「シヴァニア」
ジョージアの「チャチャ」
各国固有の名称で呼ばれています。(アグアルディエンテはスペイン語で「蒸留酒」の意味で、葡萄以外の原料から作られる蒸留酒全般を指すこともあります。)
(世界三大ブランデー)
フランスでぶどうから作られるブランデーの「コニャック」と「アルマニャック」、同じくフランスでりんごから作られるブランデー「カルヴァドス」の3つを指して「世界三大ブランデー」といいます。
いずれもフランスでのAOC法の厳しい規定に則って作られる、高品質のブランデーです。
(世界のいろんなブランデーについて)
世界には上記に挙げたブランデーの種類に加えて、様々なブランドのブランデーがあります。
ここではちょっと変わり種のブランデーをご紹介します。
●ノヤック・アルメニア(アルメニア共和国)
日本ではあまり馴染みのないアルメニア共和国のブランデー、それが「ノヤック・アルメニア」です。
アルメニア共和国は黒海とカスピ海の間にある内陸国で、国土の90%は標高1000~3000メートルの高地が占めると言われています。
1991年に旧ソビエト連邦から独立しましたが、それ以前からブランデー造りは盛んで、1881年には首都エレヴァン市でブランデー蒸留所が稼働していたと伝えられています。
コーカサス地方の南部に位置するアルメニア共和国ですが、最古のワイン生産地の一つとしても知られています。
アラクス川流域を中心として昔からぶどう栽培が盛んで、紀元前9世紀には既にロシアやアジアにワインを輸出していたとも言われています。
現在でもぶどうはアルメニアの主要農産物ですが、現在ではアルメニアのワインよりもブランデーのほうが評価は高く、その品質は「中東随一」とも称されています。
この「ノヤック・アルメニア」もその品質には定評があり、過去の国際コンクールで50個以上ものメダルを受賞しています。
かつてソ連国内ではブランデーのことを「コニャーク」と呼び、ラベルにもその表記があったのですが、フランスからの抗議により第二次世界大戦以降その名を使えなくなりました。
またこの「ノヤック・アルメニア」にまつわる有名なエピソードとして、第二次世界大戦末期、1945年の「ヤルタ会談」の逸話があります。
このヤルタ会談の場で、ソビエトのスターリンがイギリス首相であったチャーチルにアルメニア・ブランデーを勧めたところ、チャーチルは大いに気に入り「アルメニアのブランデーを一生飲み続けられる分を買い占めたい!」と言ったそうです。
実際、チャーチルは毎年400本ものアルメニア・ブランデーを取り寄せていたと言われます。
そしてもう一つ、このお酒に関するエピソードとして、この蒸留所の名前「アララットディスティラリー」が挙げられます。「ノアの方舟」が漂着した地として伝えられる「アララット山」、その麓で造られているブランデーが「ノヤック・アルメニア」だということです。
ちなみに「ノヤック」という言葉ですが、やはりこの故事にちなんで「ノアの泉」という意味があるそうです。
その味わいですが、オーク樽熟成から由来する甘やかでカドのとれた風味と、デリケートで素晴らしい香り、また色調の濃い琥珀色から立ち上る官能的な匂いを楽しむことができます。
●メタクサ・グランドファイン(ギリシア)
1880年、創業者のスピロス・メタクサさんがギリシャ南部のアッティカ地方でワイン生産を開始、1888年にはこの地の港町ピレウスにブランデーの蒸留所を作りブランデーの開始したのが同社の始まりだと言われています。
ギリシアのブランデーの原料は、ペロポネソス半島で栽培されている白ぶどう品種、「サヴァティアーノ種」が最適とされています。
これをまず単式蒸留器で蒸留して、オーク樽で数年から数十年間熟成させます。熟成を経て濃い黄色みを帯びた原酒と、別途連続式蒸留機を使って造られたブランデーをブレンドします。
これに植物性エキスと甘味料を少量添加して、再びオーク樽に詰めて最低でも1年間の熟成をさせます。
メタクサ独特の甘みと風味は、この「植物性エキス」と「甘味料」に秘密があるのですが、そのレシピは門外不出となっていて、ごく一部の関係者以外は極秘となっているそうです。
1888年のメタクサ販売開始以来、メタクサは瞬く間に人気を博し、ギリシア王室御用達、次いでロシア皇帝御用達の栄誉を受けます。
これに並行して次々と生産拠点を拡大し、19世紀末には東欧圏で最大級の蒸留業者となりました。
しかしながら第一次世界大戦・第二次世界大戦の二度の大戦を経て同社は大きな打撃を被り、第二次世界大戦後に残っていた設備は本拠地ピレウスの荒廃した蒸留所だけでした。
その後、ピレウスに残された古酒を原酒として利用し、スピロスさんの子孫がメタクサを復活させるのですが、そのメタクサのフラッグシップ的な存在が「メタクサ・グランドファイン」でした。
白地の陶器製ボトルに、赤・緑・水色などの色鮮やかな色彩がちりばめられていて、目にも鮮やかなボトルです。
そのデザインは唐草文様にも見えて、どこかエキゾチックにも感じられます。
古代オリンピックで使用された壺(オーナメント)を想起させるデザインとも言われます。
バックバーに置いてあれば一目で注目を集めるボトルで、圧倒的な存在感があります(今風に言えば「映える」ボトルです)。
ちなみにこの「グランド・ファイン」にも新旧のボトルがあり、旧ボトルは40年熟成、新ボトルは15年熟成とかなり差があります。
旧ボトルは今ではほとんど流通しておらず、もはや「幻のボトル」となりつつあります。
もし見かける機会があったら、是非飲んでみることをお勧めします。
メタクサの味わいですが、上記の製造方法からも想像できるようにブランデーと薬草系リキュールを掛け合わせたような味わいがします。
コニャックやアルマニャックと比べるとまろやかで飲みやすく、仄かな甘みも感じられます。
個人的な感想になりますが、メタクサの重厚で深みのある味わいはイタリアのブランデーにも通じるところがある気がします。
ちなみにメタクサですが、「宇宙で初めて飲まれたお酒」としても知られています。
●カミュ・イル・ド・レ(フランス)
フランス語で「レ島」を意味する「イル=島・ド・レ」ですが、この島はフランスの西海岸にある港町ラ・ロシェルの沖合に浮かんでいます。
パリから電車で約3時間でラ・ロシェルに到着し、今ではフランス本土と橋でつながっているため、車で島に渡ることが可能だそうです。
フランスでも有数のリゾート地として知られていて、冬季には16千人の人口が夏季には10倍の約16万人にもなると言われています。
この島では昔からぶどう栽培が盛んで、コニャック地方よりも以前からブランデー造りが行なわれていました。
地理的にもコニャック地方に近いことから、この島のブランデーは例外的に「コニャック」を名乗ることが許されたという経緯があります。
これに目を付けたのが大手のカミュ社で、AOC制定当初からレ島のコニャックは「ボア・ゾルディネール」※の産地となっていました。
いわば100%島育ちのコニャックで、カミュ社のマスター・ブレンダーも「例えるならコニャックのアイラ・モルト」と表現しています。
カミュがレ島産100%のユニ・ブランから造るこのコニャックは、レ島の温暖な気候・海から吹きつける潮風・砂と潮交じりの土壌・「サート」と呼ばれる海藻の肥料で育てられたぶどう等の条件が重なって、コニャックとしては非常にユニークな辛口でソルティな味わいに仕上っています。
「コニャックのアイラ・モルト」という表現がまさにぴったりとくる味わいです。
ヨード成分を多く含む海藻を肥料として育てたぶどうは、独特のミネラル香味を帯びていて、唯一無二のコニャックとなっています。
アイラ・モルトが好きな方にこそ飲んでいただきたい逸品です。
※「ボア・ゾルディネール」の詳細については、「コニャック」のページをご参照ください。
●デュカスタン・ファザーズ・ボトル(フランス)
こちらも上記で紹介した「メタクサ・グランドファイン」に引けを取らないほど印象的(というよりも強烈な)なボトルですね。
ズバリ「哺乳瓶」のボトルです。
1954年、ときのフランス首相「マンデス・フランス」さんがフランス国民に対して「アルコールを飲まずにミルクを飲め!」と言ったことに反発して作られたのがこの「デュカスタン・ファザーズ・ボトル」だと言われていています。
「アルマニャックは大人の飲むミルク」というシャレが込められているのでしょうね。
ちなみにフランスではこのボトル、「ベ・ベ・マルティーヌ」と呼ばれているそうですが、どういう意味なのかはよく分かりません。バックバーに置いてあれば嫌でも目につきますので、こういったウンチクを知っておくといいかもしれませんね。
ちなみにボトルこそ奇をてらっていますが、味わいは伝統的なアルマニャックを踏襲していて、品のある甘い香りと、複雑で豊かなコクが感じられる素晴らしいブランデーになっています。
●サン・ヴィヴァン(フランス)
これも一度見たら忘れられないインパクトのあるボトルですね。
ボトルの上部がひん曲がっていて、漫画「レモンハート」では「根性曲がりにぴったりのお酒」と紹介されていました。
もちろん根性曲がりの人用に作られた訳ではなく、この形の由来は中世の手吹きの瓶からきていると言われています。
社名の「サンヴィヴァン」ですが、1559年に騎士サンヴィヴァンがアルマニャックを蒸留したという故事からきていて、実際のこの会社の設立は1947年と、比較的新しいです。
味わいはアルマニャックの王道を表すようで、野性的な風味を残しながらもマイルドな甘みと酸味を併せ持っています。
●アランシア(日本)
世界でも非常に珍しいみかんから作られたブランデーです。
1974年、熊本県河内町でみかんブランデー作りの研究が始まりました。
熊本県は温州みかんの栽培が盛んで、特に「河内蒸留所」がある河内町は温州みかんの一大産地として知られていました。
この温州みかんに目をつけ、町おこしの一環として始められたのが「みかんから作ったブランデー」でした。
もともとは町営の蒸留所でしたが、市町村の合併によりみかんブランデー作りは熊本市に引き継がれていきました。
しかしながらその研究は苦労の連続で、もともとみかんはぶどうなどの果実に比べて糖度が低く、ワインには不向きな果物と言われていました。
これらを克服するため、コニャック用の蒸留器(アランビック)を改良し、様々な工夫を重ねることで世界初のみかんブランデーが誕生しました。
その味わいですが、香りはまさしくみかんのフレッシュな香りで、その後にみかんの温かい甘みとすっきりとした後味が広がります。
さっぱりとしていて、日本人向けのブランデーとも言われています。
ラインナップには「XO」「ソル」などがあり、熟成年数は12年から15年、美しい陶器製ボトルに入れられて年間500本程度販売されています。
ちなみに「アランシア」とはイタリア語で「みかん」を表します。
しかしながらこの「アランシア」、2005年には製造・販売が中止となり、今では地元熊本市の酒屋やバーでも見かけることがない「幻のブランデー」となってしまいました。
たまにネットオークションなどで出品されていますが、数万円の高値がつくような希少ボトルになっています。
古い酒屋さんなどにはまだ置いてある可能性があり、見つけたら購入されることをお勧めします!
●マルキ・ド・コサード(フランス)
「マルキ・ド・コサード」とは「コサード侯爵」の意味で、1242年から約700年間続いた名門貴族の家名です。
アルマニャック地方の旧家であるコサード家が、アルマニャック造りに関わったのは1930年代初期で、酒名はそのまま家名となっています。
しかしながらコサード侯爵の血筋は第二次世界大戦によって断絶され、その後生産者は転々と移り変わって現在に至ります。
このアルマニャックを一躍有名にしたのは何と言ってもそのボトルデザインで、ボトルには一匹のチョウチョがあしらわれています。
この紫紺のチョウチョは南米原産の「モルフォ蝶」で、その美しさから「世界で最も美しい蝶」とも「生きた宝石」とも呼ばれています。
またこのモルフォ蝶は非常に高い空を飛ぶことでも知られていて、「飛躍」のイメージをボトルにデザインしたと言われています。
ボトルに鮮やかに浮かび上がるチョウの姿は何とも妖艶で、バックバーに並べられるととても目を引くボトルです。
飲み終わった後のカラのボトルでも、部屋に飾ると品のいいインテリアにもなりますね。
味わいは現代人に合うようにスムーズでマイルドに仕立てられていて、とても飲みやすいアルマニャックです。「チョウチョのブランデー」の異名でも知られていますね。
《コニャック》フランス
世界各国で作られるブランデーですが、その質・量ともに傑出しているのがフランスでしょう。
その中でも、フランスの国内法(アペラシオン・ドリジーヌ・コントローレ法=原産地統制呼称法、通称AOC法)の厳格な規定に則り生産される「コニャック」と「アルマニャック」はその双璧を成します。
※「AOC法」については、2009年にEUの規定に基づき、「AOP」表記に変更となりました。
詳細については、ワインのページでご紹介します。
「コニャック」は、フランス南西部、シャラント川沿いを産地としていて、約800ものブランドがあると言われています。
前述のAOC法により、蒸留法・産地・原材ぶどう品種などが厳格に定められており、これを全て満たしていなければ、「コニャック」の名称を使うことは許されません。(その場合、単に「フレンチ・ブランデー」という呼称になります。)
ぶどう品種は、ほとんどがサンテミリオンというぶどう品種(現地呼称はユニ・ブラン)で、この品種は酸が多いことが特徴です。
ワインにするには不向きなこの品種ですが、ブランデーを熟成する過程で、この酸が芳香成分に変化して芳醇な味わいを生み出すと言われています。
そしてコニャックを熟成させるのに使われる樽ですが、多くはリムーザン・オークが使用されます。この樽は多孔性でタンニンを多く含み、樽材としては最適と言われています。
また、産地についても区分があり、「コニャック」の場合、コニャック地方を土壌の違いにより以下の6つに分けています。
〈コニャックの土地の区分〉
①グランド・シャンパーニュ
コニャック地方のほぼ中央に位置する地域で、以下の5地域はここを中心として同心円状に広がっていきます。
グランド・シャンパーニュ産のブランデーは、豊かなボディでデリケートな香りを放ちますが、熟成に時間がかかると言われます。
②プティット・シャンパーニュ
グランド・シャンパーニュに似た特徴のブランデー品質ですが、やや個性が穏やかです。
また、①に比べると比較的早めに熟成されます。
③ボルドリ
コシが強く豊満なブランデーを生み出します。こちらも比較的熟成は早めです。
④ファン・ボア
若々しく軽快なブランデーとなります。熟成期間も短期間で済みます。
⑤ボン・ボア
ブランデーの風味としては平坦で薄く感じられます。高級コニャックには使われないことが多いです。
⑥ボア・ゾルディネール
上品さに欠けると言われ、並レベルのコニャックのベースとなります。また、前述の5地区は、100%その地区産のコニャックであれば地区名をつけて売ることが許されていますが、ボア・ゾルディネール産は地区名を名乗れません。
なお、①と②だけをブレンドして、かつ①の使用比率が50%以上のものは、特に「フィーヌ・シャンパーニュ」と表示できます。
〈コニャックの熟成年の区分〉
コニャックもウィスキー同様、熟成年数の古い原酒と若い原酒をブレンドしてから製品としてリリースされます。
そして、これもまたウィスキー同様、熟成年数の若い原酒の年数表示しかできないことになっています。
コニャックの場合、この熟成年を「コント」と呼びます。コニャックの原酒は、ぶどう収穫の翌年の3月末日までに蒸留を終わらせていなければならないことになっています。
そしてその翌日の4月1日から熟成が始まり、この時点では「コント0」と数えられて、この状態が翌年の3月末日まで続きます。
その翌日、4月1日からは「コント1」となり、以降年を経るごとにコントは数が増えていきます。
そして、「コント2」以上にならなければ、コニャックとして売り出すことは許されていません。
また、この熟成年数の表記において、コニャックは年数表示をすることがほとんどなく(まれに年数表示のあるメーカーもあります)、われわれは以下のような表記から、熟成年数をある程度想像することができます。
ただし、この基準も各メーカーによって異なるので、全てのコニャックの正確な熟成年数を把握することは難しいです。
また、コニャックやアルマニャック以外のブランデーには、ラベル表示の規制がないため、以下の基準があてはまらないケースもあります。
①スリースター(☆☆☆)
コント2以上のブランデー
②VS(VerySpecial)
コント2以上のブランデー(平均熟成年数4年~7年)
③VSOP(VerySpecialOldPale)
コント4以上のブランデー(平均熟成年数7年~10年)
④ナポレオン
コント6以上のブランデー(平均熟成年数12年~15年程度)
⑤XO(ExtraOld)
コント6以上のブランデー(平均熟成年数20年~25年程度)
※2018年4月1日以降、XOの基準はコント10以上に変更となりました。
⑥オール・ダージュ
コント6以上のブランデーで、一般的にXOよりも品質が高いとされるもの
上記はあくまでも基準ですが、例えばナポレオン表記があるから6年熟成かというとそうとは限らず、メーカーによっては20年以上熟成させている場合もあります。
あくまでも目安ということですね。
〈4大コニャック〉
「ヘネシー」「レミーマルタン」「マーテル」「クルボアジェ」を4大コニャック(ビッグ4)と言います。(これに「カミュ」を加えて5大コニャックと言う場合もあります。)
〈ネゴシアンとプロプリエテール〉
上述したように、「プロプリエテール」とはぶどうの栽培から、発酵、蒸溜、熟成から瓶詰めまでの全行程を自家で行う生産者を指します。
これに対して、原料のぶどうを農家から買い取り、自社で熟成やブレンドなどの作業を行う大手メーカーを「ネゴシアン」と呼びます。
この「ネゴシアン」は、その形態により更に下記のように分類されます。
●ネゴシアン・エルヴール
少数の契約農家から原料となるブランデーを購入し、これを自社でブレンド、熟成を行うメーカーです。
自社では蒸溜を行なわず、ブレンドと熟成のみに工程を絞ったメーカーを「ネゴシアン・エルヴール」と呼びます。
●ネゴシアン・プロプリエテール
自社畑を保有していて、自社畑のぶどうのみのブランデーを造ることも可能ですが(プロプリエテール)、基本的には他のぶどう農家から原料となるブランデーを購入し、ブレンド・熟成をメインに行なっているメーカーです。
なぜなのかということですが、自社で全てをまかなうことは効率が悪く大量生産が難しいため、他の農家から原酒を購入しています。このようなメーカーを「ネゴシアン・プロプリエテール」と呼びます。
●ネゴシアン
自社畑を保有せず、複数の農家から原酒を購入してブランデーを作っているメーカーを「ネゴシアン」といいます。
●プロプリエテール
ぶどうの栽培から発酵、蒸溜、熟成、瓶詰めまでの全行程を自家で行う、家族経営の小さなブランデーメーカーを「プロプリエテール」と呼びます。
また、この「プロプリエテール」が作ったコニャックを「シングル・コニャック」と呼びます。(フランスでは「プロプリエテコニャック」と呼ばれています。)
《アルマニャック》フランス
「フランス最古のブランデー」とも言われるのが、このアルマニャックです。
コニャックに比べると、日本での知名度こそ及びませんが、母国フランスでは「若返りの媚薬」「不老不死の薬」などと称され人気を集めています。
アルマニャックは、南仏ピレネー山脈に近い地域で作られるブランデーで、ぶどう品種はコニャック同様、サンテミリオン種(現地呼称はユニ・ブラン)が主力です。
しかしながら、土壌や熟成法、蒸留法も異なるところがあり、その風味もコニャックとはやや違ってきます。
例えば熟成する際に使用する樽ですが、コニャックがリムーザン・オークを多く使うのに対し、アルマニャックは木材自体のフレーバーの強い地元のオーク材を使用します。
これらの様々な要因により、コニャックとアルマニャックには味わいにも相違が出てくるのですが、一般的にはコニャックのほうがよりエレガントで貴族的な味わいで、これに対しアルマニャックは、よりフレッシュで個性的、あんずのような味わいを持つものが多いと言われています。
よく使われる比喩として、「コニャックは女性的でアルマニャックは男性的」という表現があります。
ある人は、「コニャックは東大的でアルマニャックは京大的」と表現していましたが、これも言い得て妙で面白いですね。
ただし、これもあくまで「総じて」ということで、当たり前ですが各メーカーによりそれぞれの個性があります。
どちらがいいのかは、それぞれのお酒を飲んでみてみなさんのお好みで判断するしかないですね。
〈アルマニャックの土地の区分〉
アルマニャック地方は、その土壌によって3つの区分に分けられます。その区分は以下の通りとなります。
●バ・アルマニャック
アルマニャック地方の西側に位置する地域で、アルマニャックの中でも最高品質のアルマニャックを生み出す地域です。
この地域の土壌は、酸性で鉄分が多い粘土砂質で覆われていて、フルーティで繊細な味わいのブランデーになります。
●アルマニャック・テナレーズ
アルマニャック地方のほぼ中央に位置するのが「アルマニャック・テネレーズ」で、「バ・アルマニャック」に次いで高品質のブランデーを生み出す地域です。
重い、粘土石灰岩質の土壌をしていて、ここで造られるブランデーは、コクの強い個性を持つことで知られています。
●オー・アルマニャック
アルマニャック地方の東南部に広がるエリアを「オー・アルマニャック」地区と呼びます。
この地域は石灰質の土壌が多く、アルマニャックでは最も低いランクのブランデーとされています。
コニャックでは石灰質の土壌が好まれるのに対し、アルマニャックでは砂質土壌から高品質のブランデーが生れるとされています。
〈アルマニャックの熟成年の区分〉
アルマニャックの熟成年数の表示についても、コニャック同様「コント」を使うの起点となる日が若干異なります。
コニャックが4月1日でコントが増えるのに対し、ですが、アルマニャックは5月1日を起点とします。
また、コントそのものの年数表示についても相違があり、アルマニャックは以下のようになります。
①スリースター(☆☆☆)
コント1以上のブランデー
②VS(VerySpecial)
コント2以上のブランデー
③VO(VeryOld)
コント4以上のブランデー
④VSOP(VerySpecialOldPale)
コント4以上のブランデー(平均熟成年数5年~10年)
⑤ナポレオン
コント5以上のブランデー(平均熟成年数5年~12年)
⑥XO(ExtraOld)
コント5以上のブランデー(平均熟成年数20年~30年)
《シェリー・ブランデー》スペイン
シェリー・ブランデーとは、シェリー同様シェリーの産地で造られたブランデーのことで「ブランデー・デ・ヘレス(ヘレスのブランデー)」とも呼ばれています。
したがって、熟成される地域もヘレス地方とその周辺に限られていて、より正確に言うと、ヘレス・サンルーカル・プエルトを結んだ「シェリー三角地帯」で造られたブランデーのことを指してこう呼びます。
〈シェリー・ブランデーの製法について〉
「シェリー・ブランデー」という名称から想像すると、できあがったシェリー酒を蒸留して作ったのがシェリー・ブランデーだと思いがちですが、ほとんどのシェリー・ブランデーは通常の白ワイン(スティル・ワイン)を蒸留・熟成して作られます。
つまり、名称の由来は上述の通り、「ヘレスで造られたブランデー」というところからきています。
●ぶどう品種について
原料となるぶどう品種は、95%がラ・マンチャ地方で栽培された「アイレン種」で、残りが「パロミノ種」になります。
シェリー・ブランデーを作り始めた当初は、シェリー酒を作る過程で生じたパロミノ種のぶどう果汁を使っていたそうです。
しかしながらシェリー・ブランデーが盛んに飲まれるようになると、副産物的なぶどう原料だけではまかないきれず、大量に栽培が容易な「アイレン種」に移っていったとされています。
●蒸留について
シェリー・ブランデーの蒸留には、単式蒸留器と連続式蒸溜機の双方が使用可能となっています。
かつては伝統的な単式蒸留器(「アルキタラ」あるいは「アランビケ」と呼ばれます)を使っていましたが、19世紀に入ってブランデーの需要が高まり、より効率的に生産が可能な連続式蒸溜機も使用されるようになりました。
また、連続式蒸溜機はこの地方では「コルムナ」と呼ばれています。
●熟成について
熟成に使われる樽材ですが、シェリー・ブランデーでは伝統的に、比較的気泡の少ない「アメリカン・オーク樽」が使用されます。
コニャックに使われる樽材は「リムーザン・オーク樽」なので、この点はコニャックとの大きな相違点です。
さらにシェリー・ブランデーでは、樽熟成に主としてオロロソタイプのシェリー酒の空き樽を使用し、これをシェリー酒同様、「ソレラシステム」※で熟成させます。
※「ソレラシステム」については、シェリーのページをご参照ください。
〈シェリー・ブランデーの種類について〉
シェリー・ブランデーは、その熟成年数などの条件に応じて、下記の3種類に分類されます。
・ソレラ
熟成期間6ヶ月以上で、単式蒸留器のスピリッツ(原液)を50%以上使用しているものを「ソレラ」と呼びます。
・ソレラ・レセルバ
熟成期間1年以上で、単式蒸留器のスピリッツ(原液)を75%以上使用しているものを「ソレラ・レセルバ」と呼びます。
・ソレラ・グラン・レセルバ
熟成期間3年以上で、単式蒸留器のスピリッツ(原液)を100%使用しているものを「ソレラ・グラン・レセルバ」と呼びます。
〈シェリー・ブランデーの味わいについて〉
上記のような製法により造られたシェリー・ブランデーは、コニャックなどが華やかで上品な味わい、高級感が溢れるイメージなのに対して、どちらかというと柔らかで甘やかな味わいが口の中に広がり、気取らずに気軽に楽しめる庶民的なお酒というイメージです。
その味わいは、むしろラム酒に近いという人も多いですね。
〈主なシェリー・ブランデー〉
ここでは個別銘柄の紹介ではなく、世界的に有名なシェリー・ブランデーを一つご紹介します。
スペイン語圏の国に行くと、よく見かけるシェリー・ブランデー、それが「フンダドール」です。
ボデガそのものはスペインにありますが、2015年にフィリピンの酒類販売会社「エンペラドール社」がこのボデガを買収し、「フンダドール」の名前で世界各国に輸出されています。
主な輸出国は、フィリピン、イタリア、メキシコなどで、廉価な値段ながら高品質のブランデーということで人気を博しています。
日本で言うところの焼酎、「下町のナポレオンいいちこ」のような位置づけだと言う人もいますね。
《マール》フランス
フランスで作られるかすとりブランデー(ワインを醸造する際に生じるぶどう果実の絞りかすを再発酵して蒸留させたお酒)で、「マール」の意味はそのものズバリの「しぼりかす」です。
正式な呼称は「オー・ド・ヴィ・ド・マール」と呼ばれます。
イタリアのグラッパ同様、ワインやブランデーなどの高価なお酒に手が出ない農家の人々が、農作業の合間に楽しんでいた「庶民のお酒」がマールでした。
しかしながら1980年代のワインブームにより、より珍しいワインを求めたワインスノッブ※が目を付けて、これにより市場に出回るようになったと言われています。
※「スノッブ(スノップ)」英語では「snob」と表記し、「俗物」などと訳されます。「snobbism」は「俗物根性」です。
もっと言えば、「知識をひけらかす見栄っ張り」「気取り屋」「鼻持ちならない人物」「うるさ型」などという意味で使われ、いずれにしてもいいニュアンスではありません。
特に「ワインスノッブ」は嫌われる傾向が強く、ワインのうんちくをひたすら語り続けて周りはウンザリ・・・といったことが多いのかもしれませんね。
〈マールの製法について〉
マールに使われるぶどう品種は、黒ぶどうと白ぶどうの双方が認められていて、その中でも「シャルドネ」と「ピノ・ノワール」の2品種が多く用いられます。
マールは主として単式蒸留器を用いて2回の蒸留を行ない、伝統的に樽熟成を行なった上で瓶詰めされます。
この点、樽熟成をあまり行なわないイタリアの「グラッパ」と異なります。(近年は、樽熟成を行なって高級なグラッパとしてリリースされる商品も増えてきました。)
マールの製法については、蒸溜器や熟成方法の規定など特に定められていません。
1回目の蒸留は「粗留」、2回目の蒸留は「精留」と呼ばれて、できあがったマールの原液は、およそ50度近いものになります。
一部の地方を除いて、マールの多くの生産者は、この原液を樽熟成させます。
多くのマール生産者はとても小さい蒸溜器を使っていて、手作り感覚でごく少量のマールしか作れないため、熱烈なファンも多いお酒です。
〈マールの生産地域について〉
マールも下記の「オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン」同様、アペラシオン・ドリジーヌ・レグルマンテ(産地規制法=AOR法)の規制に則り生産されていて、この法律により14の地方で地名表示による生産が許されています。
●三大マール
マールが作られている地方はいくつかあるのですが、そのうちブルゴーニュ地方、シャンパーニュ地方、アルザス地方(ゲヴュルツトラミネール種が原料のぶどう)の3地方の品質が特に優れているとされます。
この3つの地方で造られたマールを「3大マール」と呼びます。
〈AOCマールについて〉
上記の「3大マール」のうち、ブルゴーニュ地方で造られたマールに対し、2011年にマールとして初めてAOCの認定を受けました。
正式には「マール・ド・ブルゴーニュ」と呼ばれます。マールの中でも、特に品質に優れたものであるという証明を受けたということですね。
また、マールにはコニャックやアルマニャックのような熟成年数の規制がないため樽熟成をしないものもあり(アルザス地方で、ぶどうの香りが華やかな「ゲヴュルツトラミネール種」を使用したマールなど)、地方によって様々な個性を生んでいます。
《オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン》フランス
フランスの原産地呼称ワイン(AOCワイン)は、法律で1ヘクタールあたりの生産制限量を守って作られています。
このため、この制限量を超えてワインが作られた場合、そのワインはブランデー用に蒸留されます。
また、ワインの熟成過程において、樽の上澄みワインをとったあと、樽やタンクに残されたオリを含んだ液についても、ブランデー用に蒸留されます。
さらに、ワインの原料とするには不適格なぶどう(例えば実が小さすぎるなど)を原料にこともあり、これがぶどうの蒸留酒として使用されると素晴らしいスピリッツに化けることもあります。
これらの方法で作られたブランデーを「オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン」と呼び、1941年施行の「アペラシオン・ドリジーヌ・レグルマンテ(AOR=産地規制法)」の規制を守りながら作られています。(一般的には「フィーヌ」と呼ばれることが多いようです。)
上述のAOR法により、マール同様、14の指定生産地で「フィーヌ」は造られています。
シャンパーニュ地方でもこの手のブランデーは作られているのですが、この場合「マルヌ」と呼ぶよう法律で定められています。
《グラッパ》イタリア
上記でご説明した「マール」はフランスの粕取りブランデー(ポマース・ブランデー)ですが、この「グラッパ」はイタリアの粕取りブランデーです。
「グラッパ」の起源については、他のお酒同様諸説ありますが、一般的には10世紀ころから盛んに作られるようになったと言われています。
当時のヨーロッパでは、ワインは上流階級の嗜好品であり、農民には手の出ない「高嶺の花」でした。
イタリアでもこれは同様で、当初農民はワインを造ったあとのぶどうの搾りかすに水などを加えて楽しんでいました。
やがて農家の人々は、貴族がワインを蒸留してブランデーを作っているのを真似て、ぶどうの搾りかすを蒸留して作ったのが「グラッパ」の始まりだと言われています。
15世紀に入ると、ヨーロッパ各地にも輸出されていたという記録があり、そういう意味では古い歴史を持つお酒でもあります。
その成り立ちも相まって、現地イタリアでは今でも庶民が楽しむ気軽なお酒というイメージが強いですが、今では長期熟成を経た超高級グラッパも数多く商品化されています。
因みに「グラッパ」という呼称ですが、ラテン語で「かす」を意味する「rapus」(ラプス)からきているという説が有力です。
現在のイタリアでは、この搾りかすのことを「ヴィナッチャ」と呼んでいます。
平均的なアルコール度数は40%程度ですが、商品によっては60%近いものもあり、そのために日本ではかつて「火酒」と呼ばれていたこともありました。
〈グラッパの造り方について〉
以下、一般的なグラッパの造り方を見ていきたいと思います。
●グラッパの原料
上述の通り、グラッパの原料はぶどうの搾りかすですが、これには赤ワイン・白ワイン双方の搾りかすを使います。
ただ、その製法の違いから、赤ワインの搾りかすにはアルコールが含まれていて、白ワインのそれには含まれていません。
赤ワインは発酵を終えてから醪を圧搾して搾りかすを出すのに対し、白ワインは発酵前に圧搾して搾りかすを出すためです。
※詳細については、「ワイン」の製造方法のページをご参照ください。
従って、赤ワインから出てくる搾りかすについては、そのまま蒸留に使えるのですが、白ワインの搾りかすにはアルコールが含まれていないため、残っている糖分を再度発酵して、その後に蒸留工程に進みます。
●搾りかす+アルファ
「グラッパ」の製法にも規定があり、搾りかすに何かを加えて蒸留したものは、「グラッパ」を名乗れません。
「グラッパ」以外の製法だと、下記のような区分があります。
・アクアヴィーテ・ヴィニカ
絞りかすに糖分を加えて、再発酵させた上で蒸留したものものは「アクアヴィーテ・ヴィニカ」と呼ばれます。
・アクアヴィーテ・ディ・ウヴァ
絞りかすにワインを加えて、再発酵させた上で蒸留したものものは、「アクアヴィーテ・ディ・ウヴァ」と呼ばれます。
●グラッパの蒸留
グラッパの蒸留には、連続式と非連続式(単式)の双方の使用が認められています。
一般的には、連続式蒸溜機を使って蒸留をすると、一度に大量・高純度のアルコール原液が得られるため、大量生産用のグラッパを造る際に用いられる製法です。
この蒸留機で造られたグラッパは、クセのないクリアな味わいのグラッパになりますが、これは連続式蒸溜機で得られた蒸留酒全般に見られる特徴と重なります。
一方、伝統的な非連続式(単式)蒸留ですが、その手法により3つに分類されます。
・原料と水を釜に入れて、直火で蒸留する方法です。
この手法は非常にグラッパの品質コントロール(温度調整)が難しく、有名な「ロマノ・レヴィ」など一部の蒸留所に限られています。
・原料を入れた釜を湯煎して蒸留する方法です。
この手法で造られたグラッパには、優良な品質のものがあると言われています。
・原料を入れた釜を蒸気で蒸留する方法です。
現在ではこの手法で造られたグラッパが最も多いと言われています。
非連続式の蒸留においては、蒸留後流れ出てくる液体のうち、最初の部分と最後の部分は、不純物も多くアルコール度数も安定しないことから、中心の部分(中留)だけを使います。
これらの手法は、スコッチやコニャックなどの製法と同様です。
また、この蒸留の際のアルコール度数は、86%以下と規制されています。
・単式蒸留器(カルダイア)と精留塔(コロンナ)
グラッパの非連続式の蒸留は独特の蒸溜器を使うことが多く、「カルダイア」と呼ばれる単式蒸留器と、「コロンナ」と呼ばれる精留塔をつないで蒸留を行います。
これにより得られる原液は、単式蒸留と連続式蒸溜の中間的な特徴を備えた原液になると言われています。
●グラッパの熟成
割合的には樽熟成を施さない、無色透明のグラッパが多いのですが、近年木の樽で長期熟成を行なったグラッパも多く見られるようになりました。
グラッパは、その樽熟成の期間によって、下記のように3つに区分されます。
・グラッパ・アッフィナータ・イン・レグノ
6ヶ月から12カ月間樽熟成させた熟成グラッパです。
・グラッパ・ヴェッキア
12ヶ月から18カ月間樽熟成させた熟成グラッパです。
・グラッパ・リゼルヴァ
18カ月間以上樽熟成させた熟成グラッパです。
〈グラッパの種類について〉
グラッパの種類や分類には、いくつかのやり方がありますが、ここでは下記のような4区分の分類をご紹介します。
●グラッパ・ビアンカ(白いグラッパ)
グラッパの中でも最も多いタイプで、樽熟成を行なっていない無色透明タイプのグラッパです。
「ビアンカ」はイタリア語で「白い」という意味で、その透明な液体を指してこう呼びます。
木樽熟成は経ていませんが、ガラスやステンレスタンクで最低6ヶ月間熟成させた上で瓶詰めされます。別名「若いグラッパ」とも呼ばれています。
●熟成グラッパ
蒸留後、木樽に入れて熟成させたグラッパです。木樽での熟成期間によって、それぞれ呼び名が変わります※。
木樽に入れて熟成させたことで風味や香りがまろやかになります。
高級なグラッパに多いタイプです。
※熟成期間による呼び名は、前述した「グラッパの熟成」の項目をご参照ください。
●芳香グラッパ(グラッパ・アロマティカ)
ぶどうの中でも、特に香りの強いぶどう品種の絞りかすから造られたグラッパを、「芳香グラッパ」と呼びます。
熟成の方法や期間などの定めはありませんが、蒸留の過程でぶどうの香りがグラッパにつきやすいぶどう品種を選んで造られるグラッパです。
●風味グラッパ
グラッパに、果物や香辛料・ハーブなどの香味や色などの風味を加えたものです。
ワインに対する「フレーバード・ワイン」のような位置づけのグラッパですね。
〈グラッパのグラスについて〉
グラッパを飲むための専用グラス、「グラッパ・グラス」というものがあります。
グラッパ・グラスは全体的に小ぶりで、足(ステム)の部分からチューリップ状にグラスが膨らみ、その先は細身のグラスとなっています。
グラッパを楽しむにも適していますが、ブランデーやウィスキーをストレートで飲む際にも使う人もいます。
逆に言えば、グラッパ・グラスを持っていない人は、スコッチのスニフター・グラスなどでも十分にグラッパを楽しむことができるということですね。
〈グラッパの飲み方について〉
基本的に飲み方は自由ですが、熟成グラッパなどの高級品は、やはりストレートでじっくり味わうのがオススメです。
また、他のスピリッツ類などと同じように、ボトル毎冷凍庫に入れて「パーシャル」※で楽しんだり、ロックなどで飲んでも美味しいです。
グラッパのタイプによって、飲み方を変えてみるのもいいかもしれませんね。
※「パーシャル」の詳細については、「お酒基本」のページをご参照ください。
また、グラッパはコーヒーとの相性がよく、現地では下記のような飲み方も人気があります。
●コーヒーカップで
現地のイタリアでは、カフェでコーヒーやエスプレッソを飲んだあとに、まだ温かいカップにグラッパを入れて、コーヒーの香りとともにグラッパを飲むというのが一般的だそうです。
ちょっとお酒に強い人でないときついかもですね。
●グラッパ・コン・モスカ
小ぶりのグラス(ちょっと厚手のほうがベターです)にグラッパを入れて、そこにコーヒー豆を数粒浮かべます。コーヒー豆に火をつけて、数十秒したら火を消してグラッパを飲みます。
コーヒー豆のエキスが液体に流れ出て、また香りがグラッパに移って乙な味わいが楽しめます。
カクテルの一種としても有名な飲み方ですね。
因みに、「モスカ」とはイタリア語で「ハエ」の意味で、グラッパに浮かんだコーヒー豆をハエに見立てているのだとか・・・ちょっと飲みにくいですね(笑)
《カルヴァドス》フランス
「カルヴァドス」はフランス北西部、ノルマンディ地方で作られるリンゴを原料とする蒸留酒です。
その歴史は古く、16世紀の古文書に既にその存在が記されていますが、広く世の中に知られるようになったのは第一次世界大戦以降で、その際に地名をとって「カルヴァドス」と呼ばれるようになったと言われています。
その作り方ですが、まずリンゴの果汁を搾汁して、リンゴの醸造酒「シードル」を作ります。(余談ですが近年、この「シードル」が日本でも盛んに飲まれるようになりましたね。)
そしてこのシードルを蒸留して、オーク樽などで熟成させたものが「カルヴァドス」です。(ちなみにアメリカではりんごのブランデーを「アップル・ジャック」と呼びます。)
そしてこのカルヴァドスについても、やはりコニャックやアルマニャック同様、フランスの国内法「AOC法」の規制を受けて作られており、「カルヴァドス」を名乗るにはこの規制を守らなければなりません。
この規制を受けずに作られるリンゴのブランデーは「オー・ド・ヴィー・ド・シードル」と呼ばれ、熟成年数の縛りなどもありません。
〈カルヴァドスの原料について〉
カルヴァドスの原料となるリンゴは、もちろんこの地方で収穫されたリンゴを使用します。
カルヴァドスの原料とするリンゴの品種は、48種類に決められています。
この中からリンゴの品種を選んで、まずはカルヴァドスの元になる「シードル」を造ります。
この「シードル」を味わいによって4種類に分けて、これらをその風味によってブレンドしたものがカルヴァドスの原酒となります。
その4種類のシードルの風味が、「ビター」「ビタースイート」「スイート」「サワー」です。
そして、あまり知られていないのですが、カルヴァドスの原料として使用が許されているのが「洋ナシ」です。
下記に後述するエリアによって、洋ナシの混合や比率などが定められていますが、その範囲内でならば洋ナシの使用が可能です。
これらの原酒を蒸留してカルヴァドスは作られます。
蒸留してできあがった無色透明の原液は、「オー・ド・ヴィー・ド・シードル」と呼ばれます。「りんごの蒸留酒」ということですね。
〈カルヴァドスの土地の区分〉
カルヴァドスでは、AOC法に基づき3つの地区が認定されており、以下のようになっています。
①カルヴァドス・ペイ・ドージュ地区
アルカリ性土壌の限定地区であり、最も優秀なカルヴァドスを産む地区です。
この地区で収穫されたリンゴを原料として、コニャック同様、単式蒸留器で2回蒸留、熟成2年以上など、様々な規制を守って作られたカルヴァドスは、「カルヴァドス・デュ・ペイ・ドージュ」を名乗ることが許されます。
この地区で生産されるカルヴァドスは、りんごの風味が十分に感じられる逸品が多く、値段が高いものもありますが、一度は味わってみたい名品揃いです。
②カルヴァドス・ドンフロンテ地区
この指定区域内で収穫されたリンゴを原料として、シードルに加えて30%以上の洋梨ワイン(ポワレ)を混合し、半連続式蒸留器で蒸留、熟成は3年以上と定められています。
ペイ・ドージュ地区のカルヴァドスとはまた異なり、洋ナシとりんごの双方の絶妙なバランスが感じられるのが、ドンフロンテ地区のカルヴァドスの魅力です。
③カルヴァドス地区
上記2地区を取り囲むように広がる地区で収穫されるリンゴを原料とします。
また、上記2地区のカルヴァドスをブレンドすることも許されており、熟成は2年以上と規定されています。
この地区は、最も規制が緩く、低価格の商品も多く販売されています。
また規制が緩いことを逆手にとって、伝統的なカルヴァドスとはひと味違った、革新的なカルヴァドス生産が期待できるエリアでもあります。
〈カルヴァドスの製法について〉
上記のように、カルヴァドスを名乗れる地域は3つあるのですが、それに加えて、これらの地区を名乗るには、さらに地区単位での条件があります。
それぞれ下記に説明していきます。
①カルヴァドス・ペイ・ドージュ
製造地
カルヴァドス・ペイドージュ地区で生産されたものでなければなりません。
原料
ペイ・ドージュを名乗るには、洋ナシの含有量を3割以下にする必要があります。りんごの風味をより前面に押し出すための規則ですね。
蒸留法
単式蒸留器で2回の蒸留が義務づけられています。
これはコニャックの蒸留方法と同様で、やはりリンゴの風味を凝縮させ、コクのある蒸留酒を作るための工夫です。
熟成年
ペイ・ドージュのカルヴァドスを名乗るには、オーク樽で最低2年間以上の熟成が必要です。
②カルヴァドス・ドンフロンテ
製造地
カルヴァドス・ペイドージュ地区で生産されたものでなければならないのですが、このエリアは面積が小さく、その生産量は全カルヴァドスの1%程度と非常に少量です。
原料
ペイ・ドージュとは逆に、ドンフロンテを名乗るには洋ナシの含有量を3割以上にする必要があります。
これは、この地区の名産として洋ナシのワインを多く産出しているからで、リンゴと洋ナシの両方の特長を活かしたカルヴァドスを作っている地区です。
蒸留法
これもペイ・ドージュのカルヴァドスとは異なり、半連続式蒸留器で1回のみの蒸留が義務づけられています。
これはアルマニャックの蒸留方法と同様で、やはりアルマニャックと同じように、野性的な風味のカルヴァドスに仕上がると言われています。
熟成年
ドンフロンテのカルヴァドスを名乗るには、オーク樽で最低3年間以上の熟成が必要です。
③カルヴァドス
製造地
ペイドージュ地区、ドンフロンテ地区以外の地区で生産され、カルヴァドスを名乗ることを許された地区です。
原料
カルヴァドス地区内で生産されたリンゴや洋ナシを原料とします。
それぞれの含有量に定めはなく、より自由な発想でのカルヴァドス造りが可能になっています。
蒸留法
特に定めはなく、上記のペイ・ドージュ地区、ドンフロンテ地区の両地区のカルヴァドスをブレンドして造ることも許されています。
熟成年
オーク樽で最低2年間以上の熟成が義務づけられています。
ペイ・ドージュ地区、ドンフロンテ地区でも同様ですが、熟成年数は、最低熟成年数を大きく上回るような長期熟成の製品も多く造られています。
●ポム・プリゾニエール
また、カルヴァドスの中にはリンゴが丸々1個、瓶の中に入っている「ポム・プリゾニエール(閉じ込められたリンゴ)」というものもあります。
ビジュアル的なインパクト大ですね(笑)
これは、りんごの実が小さいうちに瓶の中に枝ごと実を入れ、実が十分に大きくなった段階で枝から実を切り落とし、そのあとカルヴァドスを注いで作られます。
見かけた方は、ぜひ一度トライしてみてください!
〈カルヴァドスの熟成年の区分〉
さらに、これもまたコニャック・アルマニャック同様、コント表示による熟成年数の基準も定められていて、カルヴァドスの場合は、コニャック同様4月1日を起点としてコントのカウントを行います。
なお、等級の表示は以下のようになります。
①トロワゼトワール、トロワボム
コント2以上のブランデー
②ヴューレゼルヴ
コント3以上のブランデー
③VO(VeryOld)、ヴィエイユレゼルヴ
コント4以上のブランデー
④VSOP(VerySpecialOldPale)
コント5以上のブランデー
⑤ナポレオン、エクストラ、オール・ダージュ
コント6以上のブランデー
これらのように作られるカルヴァドスですが、上記のようなコニャックやアルマニャックに比べると、日本での知名度はまだまだ低いと言えます。
しかしながら飲み口は爽やかでリンゴの風味も良く乗っていて、カクテルのベースとして使うのにも可能性が広がっています。
もっとみなさんに飲んでいただきたいお酒の1つです。
《ピスコ》ペルー、チリ
ペルーやチリで盛んに造られるブランデー、それが「ピスコ」です。もともとはペルーで生れたブランデーですが、この「ピスコ」という名称や定義を巡って両国で争いがあり、それぞれが自国のピスコが本家だと主張しているような状況です。
いわばライバル同士のような関係の両国ですが、正式には、ペルー原産のブランデーのみを「ピスコ」と呼ぶというのが今では定説になっています。
それぞれの「ピスコ」の違いについては、下記に説明していきます。
〈ピスコの起源について〉
16世紀初頭、ペルー南部にある「ピスコ地方」にスペイン人が訪れて、この地域がぶどう栽培に向いている判断して、その後ぶどうの苗木や栽培方法をこの地に伝えていきました。
その後この地域ではワイン造りが盛んになり、17世紀初頭にはぶどうを蒸留したお酒が作られるようになったと文献に記されています。
やがてこの蒸留酒の美味しさがペルー全土で評判になり、次第に近隣諸国へも輸出されるようになったようです。
その際、ピスコ地方の港からこのお酒が運ばれていったため、やがてこのブランデーのことを「ピスコ」と呼ぶようになったと言われています。
日本での知名度こそそれほど高くありませんが、現在では世界中でこの「ピスコ」が愛飲されていて、そのまろやかな味わいから「神の美酒」とも称されています。
いずれにしても、ペルーやチリの人達にとっては、国民的なお酒であることは間違いありません。
〈ピスコの主な製法について〉
上記に触れたように、ペルーとチリではピスコの製法にも違いがありますが、ここでは一般的な製法について簡単にご説明します(ペルーとチリのピスコの詳細な相違については、別途後述します)。
まずは原料となるぶどうを絞ってブドウジュースを作ります。
この圧搾作業ですが、大きなメーカーでは機械で行ないますが、小さいボデガ(ペルーのワインやピスコの生産者)では、いまだに昔ながらの足踏み圧搾を行なっているところもあるそうです。
次にこのブドウジュース状の原料を発酵タンクに入れて、これにワイン酵母を加えてワインを造ります。
アルコール度数が10%程度になった段階で発酵タンクから原液を取り出し、これをポットスチル※に入れて蒸留させます。
※「ポットスチル」の詳細については、「お酒の基本」のページをご参照ください。
こうして出来上がったのが「ピスコ」です。
〈ペルーとチリのピスコについて〉
ここでは、両国のピスコの相違点について、下記に見ていきたいと思います。
●ペルーのピスコ
生産地
リマ州、イカ州、アレキバ州、モケグア州の4州の沿岸部と、タクナ州のロクンバ渓谷、サマ渓谷、カプリナ渓谷で生産されたもののみに限られます。
ぶどう
白ぶどう、黒ぶどう双方の品種が使われますが、ぶどう品種としては8種類に定められていて、主な品種は「ケブランタ」「イタリア」「トロンテル」などです。
蒸留回数
1回のみの蒸留です。
樽熟成
認められていません。従って、ペルーのピスコは無色透明のもののみになります。
加水
認められていません。
アルコール度数:38度から48度です。
ペルー国内には約450ものボデガ※があると言われています。
その中でも、イカ州に最大規模のワイナリーを構える「タカマ」は、ペルー大使館御用達のブランドとして知られていて、ペルーでも最高級のピスコ生産者の一つです。
※「ボデガ」は上述の通りですが、スペインのシェリーでも蔵元(蔵)のことを同じように呼びますね。
●ペルーのピスコの種類について
ペルーのピスコの種類にもいくつかあり、代表的なものを下記に説明します。
・プーロ (Puro)
ピスコ用のぶどう品種のうち、いずれか一つの品種でのみ造られたピスコを「プーロ」と呼びます。
あまり香りが強くないのが特徴で、ピスコ本来の味わいを楽しむことができます。
・アロマティコ (Aromatico)
「プーロ」とは逆に、非常に香りの強いモスカート種から造られるピスコで、独特の爽やかな香りを持ちます。
・モスト・ベルデ(MostoVerde)
発酵の途中で醪を蒸留するという特殊な製法で造られたピスコです。
通常のピスコの2倍前後のぶどうを使って造られるピスコで、ぶどうに由来する本来の香りやコクが楽しめるピスコです。
・アチョラード(Acholado)
ピスコに最適なぶどう品種と言われる「ケブランタ種」のぶどうを使って、これに様々な品種のぶどうをミックスさせて造られたピスコです。
様々な品種のぶどうの特色を楽しめるピスコです。
●チリのピスコ
生産地
チリでピスコを造ることを許されて地域は、ペルー同様法律で定められていて、チリ北部のアタカマ地方とコキンボ地方のみです。
従って、ピスコの蒸留所(「ピスケリア」と呼ばれます)も北部に集中しています。
ぶどう
チリでピスコを造ることができるのは白ぶどうのみで、主な品種は「マスカット・オブ・アレキサンドリア」「ペドロ・ヒメネス」「ピンクマスカット」「トロンテル」「オーストリア・マスカット」の5種類になります。
蒸留回数
チリには蒸留回数の制限がないので、多くは複数回の蒸留を行なって、いったんアルコール度数の強い原液を造ります。
樽熟成
チリでは樽熟成を行なうことが許されているため、チリのピスコには無色透明のものと樽の色がついたものが混在します。
加水
加水が必須条件なので、いったんできあがった原液に水を加えることでアルコール度数の調整を行います。
これは主なウィスキーの製法と同様です。
アルコール度数
30度から50度までと、ペルーのピスコよりも幅があります。
チリは近年、ワインの生産量・品質・知名度の高さでも目を見張るものがあり、ピスコの生産量においてもペルーのそれの20倍から30倍にもなると言われています。
上述したようにぶどう品種から製法まで、ペルーとチリでは様々な違いがあり、飲み比べてみるのも面白いかもしれませんね。
〈ピスコを使ったカクテルについて〉
ピスコは蒸留酒であり、チリとペルーで多少の違いはあるものの、やはりアルコール度数は40度前後はあります。
もちろん、ストレートでダイレクトにピスコの味わいを楽しむのもオススメですが、アルコール度数が強すぎるという向きには、以下のようなピスコ・カクテルはいかがでしょう?
・ピスコサワー
もしかすると、「ピスコ」そのものは知らなくても、この「ピスコサワー」というカクテルは聞いたことがあるという人もいるかもしれません。
それほど世界的にも知られたカクテルで、もちろん現地でも大人気のピスコ・カクテルです。
ピスコにレモン果汁と卵白、これにシロップを加えてシェークするのが通常ですが、自宅で作るのならミキサーでも簡単に作れます。
甘みとレモンの風味のバランスが絶妙で、特に夏向きのカクテルと言えます。
その味わいからか、現地では、女性が好んで飲むことが多いようです。
・チルカーノ
こちらも簡単に作れるカクテルで、ピスコにジンジャーエールとレモン果汁を少々加えたカクテルです。
モスコミュールのベースをウオッカからピスコに変えたものですね。
現地では、最近はジンジャーエールの代わりにトニックウオーターを使う店も多くなっているのだとか・・・
こうすると更に辛口のカクテルに仕上ります。
こちらは「ピスコ・サワー」に比べると辛口になるため、地元では男性が好んで飲むことが多いそうです。
《ブランデーその他》
●ランシオ香
もともと「ランシオ香」という言葉は、ワインのテイスティングにも使われる表現で、ワインのテイスティングの際には「腐ったような匂い」「行き過ぎた香り」等と、どとらかというとマイナスのニュアンスの表現で使われることが多いです。
これに対してブランデーのテイスティングで使われる際の「ランシオ香」は、「余韻の長い」「心地よい香り」などと捉えられ、むしろ好意的な表現に多く使われます。
この違いの原因は、蒸留・熟成のメカニズムによりますが、以下に見ていきたいと思います。
ぶどうを発酵させた際には「脂肪酸」が生じます。
この「脂肪酸」は樽熟成中に酸化して「メチルケトン」という成分になり、この「メチルケトン」が蒸留時にできた「エステル」※と結びついて「ランシオ」になります。
このように、蒸留・熟成という化学変化を経た「ランシオ」は、ブランデーにおいてはポジティブに表現され、また長期熟成されることで更に「ランシオ香」自体も変化していきます。
若いブランデーと長期熟成ブランデーを飲み比べて、この「ランシオ香」の違いを味わってみるのも楽しいかもしれないですね。
※「エステル」については、スコッチのページをご参照ください。
●ブランデーグラス
「ブランデーグラス」とは、その名の通りブランデーを飲むことに特化して作られたグラスのことです。
特化と言ってもその用途がブランデー飲用に限られている訳ではなく、例えばソムリエ※がワインのテイスティングで使用することもあります。
形状は、グラスの腰の部分がチューリップのように膨らんでいて、ステム(足、茎)の部分は短く、ややずんぐりむっくり体形をしています。
一昔前の人ならば、お金持ちがガウンを着ながらブランデーグラスを持ち、葉巻をくゆらせながら暖炉の前でブランデーを味わう・・・・といったいかにも昭和の風景を思い起こすかもしれません。
その際、ブランデーグラスは人様と中指で挟んでグラスを持ち、手のひらでグラスを温めながら、立ち上ってくるブランデーの香りを味わいながら飲む、という「作法」が思い出されるのではないでしょうか。
実はこの飲み方、現代においては主流とはされていません。かつてこの飲み方が流行ったのは、当時のブランデーの品質が安定しておらず、そのためブランデーを温めて半強制的に香りを引き出したためだと言われています。
現在のブランデーは、低価格帯の商品でもしっかり香りが登ってくるものがほとんどで、むしろ温めてしまうとアルコールが揮発して刺激臭が強くなってしまうので、この飲み方は推奨されていません。
今では、グラスのステムの部分を持って飲むのが主流となっています。
ブランデーグラス以外のグラスでも、グラスにくびれがあるようなタイプであれば、グラッパグラスでもウィスキーのテイスティンググラスでもブランデーは楽しめます。
※「ソムリエ」については、ワインのページをご参照ください。
●ブランデーウォーマー
その名前の通り「ブランデーを温めるための道具」です。
上述したように、今ではブランデーそのものの品質が安定していることが多く、あまり温めるシーンを見かけることはなくなりましたが、手のひらでグラスを温めるのではなく、アルコールランプなどでグラスを温めることで、強制的に香りを立てるツールです。
多くはキャンドルやアルコールランプとグラススタンド、それからブランデーグラスの3点セットになっていて、中世ヨーロッパなどでは盛んに使われていたようです。
今ではあまり使われることがなくなったと書きましたが、液体の温度を上げることで劇的に香りが変わるようなブランデー、例えば上質の「フィーヌ」※などを最高の状態で楽しむようなシーンでは重宝するツールです。
最近だとブランデーの飲み方というよりも、「アロマ」を楽しむのお店などでもよく使われているようです。
※「フィーヌ」については、フランスのブランデーの項目をご参照ください。
●遭難救助犬
19世紀の半ば頃、アルプスの冬山登山では遭難者が耐えなかったそうです。
これを見かねた現地の寺院の僧侶達が、もともと寺院で飼っていたセントバーナード犬を遭難救助犬として使い始めました。
その際、セントバーナード犬の首に小さな樽をくくりつけて、その中にブランデーを入れていたそうです。
遭難救助犬が遭難者を見つけると、遭難者はそのブランデーを飲んで身体を温め、その間に救助犬は戻って救助隊を案内するという訳ですね。
特にバリーという遭難救助犬は、40名もの命を救ったことで知られていて、この話をもとにして、ヘネシー※がかつてセントバーナード犬のマスコットボトルを販売したこともありました。
ちなみにですが、ブランデー以外でも、スピリッツ系の蒸留酒ならばそれなりに身体を温める効果は期待できます。
しかしながら保温効果は短時間のみで、酔いが覚めるとお酒を飲む前よりも寒く感じられるそうで、あまりお酒を飲んで暖を取る、というのはオススメできないようです。
※「ヘネシー」については、4大コニャックの項目をご参照ください。